第7話 美和の祝勝会
紗理奈から連絡があった。苦節十年、美和がついに意中の人の彼女の座を獲得したそうで、その祝勝会兼報告会をやるよということだった。
私たち三人は新宿歌舞伎町の居酒屋に集合し、ハッピーアワーで半額の大ナマで乾杯した。
「やったぜ、おめでとう!」
彼女によれば、好物のバレーボールの餌に食いついた彼を一気に釣り上げたそうで、そこから先はとんとん拍子、初デートで彼の方から告られ、ファーストキスも済ませたそうだ。
ちなみに美和が十年前に自分を押し倒した女だとは全く気が付いてないらしい。
「それで、美和、それずっと隠し通すつもりなの」
「もちろん隠し通しますよ。たとえ彼と結婚しても、秘密は墓場まで持っていく覚悟です」
それは無理なんじゃないかなとか、ばれた瞬間に終わるよねとか、思うところはいろいろあったが、幸せの絶頂の彼女にはどうせ何を言っても耳に入らないだろう。
美和の説明に、作戦参謀の紗理奈もしたり顔で頷いている。
なんだかなー。
もう一軒いこうと盛り上がる二人。つい、私はこのあと男と約束があるからと嘘をついてしまった。二人が随分と遠いところに行ってしまったような気がしたから。
親友に嘘をつきたくなかった私は、嘘をホントにするために美月ちゃんパパを呼び出した。
「歌舞伎町にいるから、三十分以内に来てくださいな」
慌てて駆けつけてきた美月ちゃんパパの腕を取って、早々に目についたラブホに飛び込こんだ。自分から全裸になり、シャワーも浴びずに彼に抱き着く。
何度も身体を重ねた美月ちゃんパパ、彼はいつも私の身体に満足をくれた。早くその満足が欲しくて、私は気が急いていた。
でも、今日に限って、いろんなことが頭をよぎって、私は行為に集中できなかった。
「あのさー、真由先生」
とうとうイケずに終わった私に、追い打ちをかけるように美月ちゃんパパが言った。
「来週奥さんが娘たちを連れて帰ってくるんだよね。それでお誘いは今夜を最後ってことにしてほしいんだけど」
「えー、良かったね。よさげな後釜がいたら、紹介よろしく」
明るくそう言ったつもりだったが、美月ちゃんパパは怪訝そうな顔で私を見ている。
私は自分のほほに涙が伝っていることに気が付いた。私は泣いていた。
「え、マジ? もしかして、真由先生、本気で僕のこと好きだったの」
そんなことあるわけがない、美月ちゃんパパとのセックスは気に入っていたが、それは好きということとは違う。
「それじゃ、お腹でも痛いの」
いや、痛いのはお腹じゃない。痛いのは、きっと、心だ。
私はすかさずスマホを取ってつばさくんパパに電話した。男と一緒のベッドの上から、全裸のままで。
パニックになっていた私はそれしか思いつかなかった。自分でも訳が分からないこの哀しさから逃れる方法を。
「突然のお電話すみません。あの、もう一度、一緒にすき焼き食べてもらって良いですか」
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