第6話 悪魔

テーブルの下に隠れてなんとかなった。

「おい、お前。なんてことをするんだ。あの時のお前は何処に行ったんだ。」

「はぁ、知らないさ。うるさいんだよお前は。ほんっと耳障り。」

口論なんてふざけてる。紘汰と俺は仲が良かった。札幌銀行事件までは。あの犯人は酒で酔っ払った俺の父だ。それを知った紘汰はなんて思っただろうか。紘汰はとっても優しかった昨日とは全く別だった。それはまるで、怒りのような悲しみのような恨みのようなそんな表情だった。顔で人のすべてが分かる。本で見た一文をその時思い出した。たしかその題名は、

『人の心理。全ては…。』

という本だった。心理。そのままの言葉だ。心の理まり。紘汰の気持ちになるとそれは全く同じ表情だ。仮面…紘汰のことをずっと悪魔だと思った。だけど、本当の悪魔は人の、俺の心だったんだ。人の心には表と裏があって、表は優しい一面。裏は、悪い一面。常に、表の感情を出さなくてはならない。あの本の一文だ。

父の行動は裏だ。あのとき、何も言えなかった俺も裏。裏裏裏裏。脳裏に響く。

「どうだ。わからないだろ俺の気持ちが。分かるんだったらなぜあのとき何も言わない。お前は悪魔だ。悪魔は駆除しなきゃいけない。お前の人生すべてを今潰す。

さ・よ・う・な・ら」

悪魔の近くにはいつも天使がいる。闇堕ちを助けてくれる。漫画でお決まりのことだ。これは漫画ではない。天使も悪魔もいない。この世は皆平等。紘汰も俺も絢香さんも。ここにいる人もいない人も全員。悪魔はやられる運命。

「いひひひひひひ。」

これで誰が幸せになるのか。またあの本の一文を思い出した。

『皆に幸せをもたらす行動をする。これが、今やるべきこと。』

幸せを…。

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