ヤることヤってしまう

「昨日、彼氏にフラれたの」


津島さんは神妙な面持ちで話した。


「悲しくて一人でヤケ酒してたら、いつの間にかあそこで寝ちゃってて……」

「そうだったんだ……」


倒れるまで飲むとはかなりショックだったんだと思う。

俺を元彼と勘違いするぐらい酔った。


「幼馴染なの。中学からずっと付き合っていたんだけど、医大に入ってからどんどん変わっていて、何回も浮気されて、それで昨日もう無理になって……」

「大学デビューってやつか」

「もともと陰キャだったんだけど、医大に合格した途端、イキり始めてちゃってさー。顔はこんな感じ」


スマホの写真を見せてくれた。

津島さんは「陰キャ」と言うが、俺より全然イケメンだし、むしろ俺からすれば十分「陽キャ」だ。


「浪人中も支えたのに……クソ!ゴミ!カス!」


ごくごくと缶チューハイを飲む。

顔がみるみる赤くなっていく。

酒はかなり弱いようだ。


「津島さん、飲み過ぎちゃダメですよ……」


俺は次の酒に手を伸ばす津島さんを止めた。


「津島さんはやだっちゃ!ミツキンって呼げ!」


ミツキン……?

ああ、なるほど。

水月(みつき)だから「ミツキン」か。


「ミツキン……飲み過ぎはよくないよ」

「おろー!ミナトンが、わの名前呼んだじゃ!」


どんどん津軽弁が出てきた。

昨日も酔っていて津軽弁が出てたな。

これはヤバいかもしれん……


「津島さん!水、飲みましょう!」


俺は津島さんに水を差し出した。


「酒に逃げちゃダメだ。もっと自分を大切にしないと」

「……ミナトン。優しいっちゃ。好きだじゃー!」


津島さんが俺に抱きついた。

柔らかい大きな胸がむぎゅと当たる。

乱れた金髪の巻き毛が、俺の鼻をくすぐった。


「おわ!ちょって待って……」

「待たないずやー!」


津島さんは俺にキスをした。

すげえ熱い……

ヤバい。俺の胸の奥からマグマが噴き上がってくる。

これ以上は、抑えられない。


「ミナトンならいいっちゃ」

「本当に?」

「めぐせぇこと、しよ」


「めぐせぇ」が、どういう意味か知らない。

たけど、OKってことだと思った。 


「はぁ……ミナトン。わっか好きだじゃ……」


◇◇◇


ちゅんちゅん!


朝、鳥の鳴く声が聞こえる。

いわゆる「朝ちゅん」ってやつだ。

そう……俺と津島さんはヤってしまった。

昨日まで名前も知らなかった相手と、いきなり熱い一夜を過ごした。


ところどころ記憶が曖昧だが、最後は俺のベッドで一緒に寝たんだよな……

津島さんは「ご無沙汰」だったのか、何度も何度もせがまれて……最低三回はしたと思う。

おかげで腰が少し痛むぜ。


「あれ?ミツキンは?」


俺の隣で寝たたはずなのに。

帰っちゃったのかな?

あ、テーブルの上にメモがある。


≪ごめんなさい。瀬川さんが起きる前に帰ります。昨日のことは忘れてください。津島水月≫


そりゃそうだよな……

ほとんど知らない男と何度もしたんだもんな。

女の子からしたら、忘れたいことだろう。


つーか、今何時だ?

ヤバい!遅刻だ!


——こうして俺は、またブラック社畜の日常に戻った……と思っていた。しかしこれから、意外な方向へ俺の日常は動き始める。


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