続々と集う、関係者たち
第10話 親代わりの書店主夫妻、そして、教授の来訪
ここで、下川書店の店主夫妻がやってきた。
高校をもうすぐ卒業する19歳のウエイトレスが、普通の客を招くように、下川夫妻を彼らの陣取る横隣のテーブルに案内した。
夫妻は、園長と大宮青年の斜め向かいにある位置に並んで座った。
「皆さん、遅くなって申し訳ありません。清美ちゃんの件ですね」
「下川さん、もうそのお話、御存知です?」
「ええ。先日、うちに岡山さんからお手紙戴きまして、清美ちゃんの卒業後、もう少し面倒見ていただいて、私らと本田さんに、この子が「恩返し」できるようにしてやってもらえないかと、そのように書かれておりました。実は・・・」
この度珈琲を運んできたのは、下川夫妻の家に住込んでいるウエイトレス。
「あの、私のこと、ですよね・・・」
清美の疑問に、老園長が答える。
「その通りじゃが、心配せんでもよろしい。悪いようにはせんから」
「では、ごゆっくりどうぞ」
彼女は、他の客に接すると同様に、下川夫妻らに挨拶して厨房へと向かった。
同じウエイトレスの制服を着ている女子大生が、尋ねる。
「下川さん、清美ちゃんに何か、ご心配をされていらっしゃいませんか?」
「いや、特にはしておらんよ。この卒業を機に、あの子さえよければ大阪に出てもよし、もしもう少し岡山に居たいなら、私らのところにいてくれればいい。私個人としては、清美ちゃんがもう少しいてくれたら大いに助かる。陽子さんのところも、そうでしょ?」
「私個人としては、まったく、同感です。ですが、私、権限ありませんので、両親と相談してでないと、私の一存では、何とも、申し上げられません」
・・・ ・・・ ・・・・・・・
この店に今いる客は、彼ら以外では、あと2人。
その客が2人とも、レジで支払を済ませた後、彼らのもとにやってきた。
「御取込中のところ、失礼いたします」
若い方の男性が、まずは挨拶する。
「どちら様ですか?」
「私は、O大学経済学部で教授を務めております、佐藤道正と申します。大変申し訳ないが、お話、あちらでお聞きしておりました。私もひとつ、岡山清美さんに本をよく届けていただいておりますゆえ、彼女にアドバイス、させてやって下さらんか?」
今度は、少し年長の眼鏡をかけた男性が挨拶する。それに、少し若い男性が続く。
「私は、O大学理学部物理学科で教授を務めております、堀田繁太郎と申します。姫路出身ですけど、岡山には親戚もおりますゆえ、よつ葉園の森川一郎先生のお話は、かねてお聞きしております。佐藤先生とは、学内の同じサークルの顧問をいたしておりまして、大いに懇意にさせていただいております」
聞けばこの両教授とも、下川書店と懇意にしており、清美はたびたび、両者の研究室に本を届けに向かうことがあるという。
「せっかくですので、どうぞ先生方、お掛けください。改めて、珈琲お出しします」
ママさんがマスターの代わりにやってきて、隣のテーブルに両教授を案内した。
「それは、ありがたい。お言葉に甘えさせていただこう、堀田さん」
「では、私も、御一緒いたしましょう」
マスターの淹れた珈琲と水を、この度高校を卒業するウエイトレスが運んできた。
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