第9話 父親の懸念
「陽子さん、清美を呼ぶの?」
尋ねる父親に、マスターの娘が答える。
「いえ、私がこちらで皆さんのお話を伺うよう、マスターから指示されましたので」
そう言って彼女は、空いている席に腰かけた。
・・・ ・・・ ・・・・・・・
重苦しい雰囲気は、これで幾分、店外の小春日和の陽気に近づいた。
「陽子さん、うちの清美ですが、この2年来、きちんと仕事、出来ておりますか?」
「その点につきましては、もう、御心配には及びません。マスターもママさんも、それから下川さんご夫妻も、清美さんには何の問題もないと申しております。しかも、この度卒業する高校にしましても、何と、この4年間、皆勤で通われましたし、商業関係の資格も、簿記を中心に、しっかり取得されています」
それで少しは安心したのかというと、この父親に関しては、そうではなかった。
確かに伺っています。
いやあ、立派なものです。親馬鹿は割引いていただくとしても。
ただどうかなぁ・・・。
これまでうちの娘、遊びに出たりする間もなかったのではないかと。
そこが私はね、心配なのよ、逆に。
ここで高校を卒業して、さあ、私のもとに引取ってメデタシメデタシと、手放しではいきそうにない気がして仕方ないのです。
これが例えば、引合いに出しては悪いが、津山とか児島とか丸亀あたりの小都市であれば、そこまで遊ぶ場所もないから、まだよろしい。
せやけど私のおりますのは、大阪ですよ。さすがに中心部ではないですが、仕事で中心部に行くことは普通にありますし、遊ぼうと思えば、いくらでもそんな場所はある。大阪だけちゃう。西には神戸、東は京都。まあ、その気になれば遊ぶ場所には事欠かん、そんな地域なのよ。こんなことは陽子さんや大宮君あたりには釈迦に説法かもしれんけど、ここは、言わせて置いてもらいたい。
ですから、私としましては、別に自分の生活費をケチろうとか、会社の人件費を抑えようとか、そんなさもしい意図では一切なしに、清美のことを純粋に考えれば考えるほど、これを機会に引取って、さあうちで生活しろというのは、ちょっと、二の足を踏むどころか、その二の足が、引けてしまいますのや。
ここだけの話ですが、近いうちに、弊社は岡山支店を出そうと思っております。
ならば、清美をその責任者にしてとか、そんなことを考えもしました。ですが、いくらなんでも未成年ですし、高校出立てて間もないオネエチャンにそこまでの責任を負わせるのは、いくら自分の娘とはいえ・・・、そこのサポートができる社員をつぎ込めばという案も有り得ましょうけれども、それでは清美のためにはなるまい、と。
それでもちまして、少なくともあと1年は、本田さんと下山さんの方で、御礼奉公というのも難ですが、もう少し羽目を外さぬよう、うちの娘の面倒を見てやっていただければと、そんなことを思って、ここに参った次第なのです。
とはいえ、お相手さんのあることですし、私がこうしてくれと申して、はいどうぞとおっしゃっていただけなければ、それはもう、仕方ありません。
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