第7話 少女がもたらしたのは、ややこしい現実
目の前の青年の指摘を、老園長と対手の父親は、黙って聞いていた。
それにしてもこの青年は、自分が言葉にできないことを言葉にしてきちんと表現できたものだ。そんな感心を持ちこそすれ、この若造が、などという反感の欠片も出しようがない。ここはもはや、黙って拝聴するしかない。
そんな思いで聞いていた老園長のほうが、程なく、唸るように言葉を発した。
「哲郎は、やっぱり、賢いのう・・・。それも、O大学に入ってこの方、さらに磨きがかかっておって、大いに結構なことじゃ。どうじゃ、岡山さん、こちらの学生さんの懸念されるところというのは? あんたがもしこの青年に反論できるとすれば、どんな論点がありましょうか? わしなら、そうじゃ、わしが親であるから、親としてきちんと監督すれば問題ないと、そんなところか、のう・・・」
老園長の質問に、元入所児童の父親が答える。
そりゃあ、そのくらいはすぐに私も思いつきました。
ですが先生、私が父親として何です、親権者の最後の務めと清美を指導するとしましても、まあ、仕事では問題ないでしょうが、私生活と申しますか、家族として、わし、今すぐ、そこまでできる自信がありません。
よつ葉園さんにお世話になりっぱなしの駄目親父であるからとか、そういう問題ではなくして、やはりあの子は間違いなく、今大阪に連れて帰ったら、ひょっと、駄目になりはしないかと、そんな心配が尽きませんのや。
ですから、大宮君に何か反論を申してみよと言われましても、それがある限り、私はねぇ、満足な反論も出来んのですよ。
いつになく、父親の弁はいささかしどろもどろのような感じがしなくもないが、要はそれだけ、心配が募って仕方ないというわけであろう。
彼の娘の親権者代理人を務めていた老園長が、ここで尋ねた。
「つまり、哲郎君の御指摘は、岡山さんにとってまさに「図星」ということかな?」
その回答は、やはり、案の定というべきものだった。
「はい。それ以外の何物でもありません」
重苦しい雰囲気が、彼らの囲むテーブル内を支配している。
一方、かの男性の娘、この店のウエイトレス2名のうちの一人は、さほど忙しくないとはいえ、他のテーブルの客への接客にいそしんでいる。その声は普段と何ら変わりない、若い女性らしい明るい声そのものである。もう一人のウエイトレス、この店のマスターの娘の方は、両親であるマスターとママさんとともに、厨房でかれこれ仕事をしつつも、彼らの話に耳を傾けていた。
「それにしても、何や、えらいことに、なってきた、なぁ・・・」
かつて大阪にいたこともあるマスターが、関西弁でつぶやいた。
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