第6話 青年と未成年の狭間を、どう乗り切るか?

 一通りかの事件絡みの話が続いた後、話しを戻したのは最年少の大学生だった。

「あの事件を出しかけたのは申し訳なかったけど、ここは真剣に対応を考えなきゃ」

「そうか・・・。それはまたなぜだ? 哲郎」

 大宮青年が、そのことについて述べていく。


 確かに清美は、この度高校を卒業する。晴れて彼女は、高卒の資格が手に入る。

 これはあるとないとでは、社会で大きく扱いが異なる。

 きれいごとでも何でもなく、それが現実だ。

 ですが、ぼくが言いたいのは、そんなことではないです。

 

 さて、彼女は今、満年齢で何歳か?

 別にお答えいただく必要はありません。

 

 彼女は、現段階で満19歳。日本国の法令においては「未成年者」として、契約をするにあたっては、原則として法定代理人の同意が必要です。

 あるいは婚姻においても、相手が成人であるなしに拘らず、同じく法定代理人が1人でよいとはいえ、必要だ。

 今の職業野球でも、昨年の長嶋茂雄さんのように大学生であれば、すでに成人しているから、このような問題は発生しません。しかし、今阪急にいる米田哲也、ぼくと同学年になる選手だけど、彼は、その法定代理人云々の話もあって、二重契約問題が発生したと聞いています。阪神と阪急でもめて、結局、早く契約が成立したことも含めて、阪急の入団が決まったようですね。これが長嶋さんや杉浦さんみたいに大学出の22歳であれば、話は本人の問題だけで済むのですが。

 野球の話だけじゃない。

 様々な契約をするにあたっても、彼女が次の誕生日を迎えるまでは、法令上は「未成年者」としての保護が与えられるかわりに、選挙権はないです。厳密には飲酒喫煙も駄目ですが、清美は幸いどちらもしないようだから、そこはいいでしょう。

 ま、ぼくは、喫煙はともかく、飲酒の方は、いささか早めに始めていたから、あまり、人のことは言えませんけど(苦笑)。


 それから、何よりぼくが懸念するのは、卒業と同時に、みなさんこれまでお世話になりました、ほな、父もおる大阪に行きまっさぁと、それで大阪に出たとします。それは別に、我が国の憲法は居住移転の自由も職業選択の自由も認めておりますから、問題はない。まして、父親の岡山さん宅に行けばもとより、アパートか何かを借りるにしても、父親である岡山さんが同意されれば、まったく問題ないでしょう。


 ただし、そこまでは、です。

 この度高校卒業した時点で彼女は、これまでにない「自由」を手にすることになる。その「自由」というのは、確かに開放的で素晴らしいものです。

 ぼくも、大学に合格してしばらくの間、その自由を満喫しましたよ。

 あの川崎ユニオンズの西沢茂君も、高校卒業後すぐプロ野球の世界に入って、遠征であちこち行くじゃないですか、そりゃあ、仕事ついでとはいえ「旅」ができるわけでしょ、その解放感は何とも言えないものがあったと、言っていましたね。

 もっとも、彼は御両親がしっかりされた方ですから、それに溺れることはありませんでした。


 しかし、彼女の場合、どうかな?

 中学までのよつ葉園での生活と、高校に行っている間の4年間の生活。

 この二つとも、人よりかなりきつく縛られた精神状態の中での生活だった。

 彼女はこの春、その縛りから完全に放たれてしまうわけです。そこで、いくら父親のもととはいえ、大都会の大阪に行ってとなれば、どうでしょうか。

 解放感のあまり、自分を律しきれなくなる可能性。

 それをぼくは懸念しているのですが、どうでしょうか?

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