第3話 父の懸念は、有能で可愛い娘、それ故?

「いらっしゃいませ」


 今度は、学生服で角帽の大学生が入店してきた。

「大宮君じゃないか、どうした?」

 マスターの問いに、常連の大学生が答える。

「実は、森川のおじさんに、この店に来るよう、先程電話がありまして、それで参りました。珈琲はおごるから、ちょっと相談に乗れとの仰せですよ」

「じゃあ、岡山さんのおられるテーブルにお掛けなさい。珈琲なら、すぐ出してあげるから」

 この件で「招集」された大学生は、中年男性いるテーブルのの向い側に座った。


「大宮哲郎君ではないか。お久しぶりです。岡山和彦です」

「岡山さん、御無沙汰いたしております。御商売の方は、おいかがですか」

「ま、ボチボチや。とも言えんほど、最近は少し忙しくなりつつあるのよ」

「清美さんが今年、高校卒業しますよね。来年度はかなりの戦力に・・・」


「それがな、そうしたいのはやまやまではあるが、そうすることによるメリットとリスクをいろいろ考えたけど、や。そりゃあ、清美はこの2年間、下川さんのところとこちらで経理事務の力もつけ、接客の経験も大いに積んできた。そのことは、御二方からの情報でよく理解しとるよ。ただ、本人のこと考えたら、高校を卒業したから、さあ父親のいる弊社に早速来させるにも、ちょっと、どうかと思うところが出てきてねぇ。まして早速取締役で常務だの専務だの、まして副社長なんて、とんでもないわな(苦笑)。じゃあ社長秘書にと言われるかもしれんが、親子関係で、実質小娘にそんな役を与えるわけにもいかん」

「何か、清美さんがお父さんに非礼とか粗相のようなことを?」

「そんなものは一切ない。わしには、自慢の娘やでぇ(苦笑)。だからこそ、私は逡巡しておるのよ。これが馬鹿娘なら、話は早いわ。さっさとうちに連れて帰って、わしが責任もって何なり、やればよろしかろう。そやないからこそ、わしは、心配なんやぁ」


 哲郎青年は、これでおおむね状況を察知した模様である。


「岡山さんのご心配というかご懸念、ぼくは、おおむねわかりましたよ」

 この言葉、かのウエイトレスの父親には、意外だった模様。


「何や、君、もうわかった?」

「ええ。そのキーポイントは、清美さんの高校卒業に伴う大阪への「移住」ですね」

 やっぱり、彼はそこまで理解しているのか。

「そうじゃ。そこや。岡山の北西、吉備線の終点(苦笑)。それは冗談。正に、それや」

「親元でしたら、そこは、何とかなるのではないかと、思われますが・・・?」

「大宮君ねぇ、お言葉やけども、親元であったところで同じことや。そりゃあ、一人暮らしをさせるとなればさらなる心配事も増えようが、そこが幾分軽減されたところで、わしの懸念の方向は、まったく変わらんのや。余計目に付くだけ、シンドイワ」

「えらい心配性ですね・・・、娘さんのこととはいえ」

「まあ息子なら、ここまで心配せんでもよさそうなものやけど、な。まして大宮君のような優秀な息子やったら、わしなんかが何も言うこと、ないわ(苦笑)!」

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