第5話 遊

 家に帰ると早速というように道隆くん(結局名字聞いてない)からメッセージが届く。


『ヨシって友達いねえんだわ。だからひかりちゃんが友達になってくれると嬉しいな👍』


 道隆くんは図々しい所もあるけど、他人思いの優しい面もあるようだ。


『藤原くんの友達は道隆くんじゃないの?』


 返信するとすぐに返ってきた。


『従兄弟なんだわ。でさでさ友達になった記念として3人で映画行かね?』


 友達記念なんて初めて聞いた、なんて思いながら映画くらいなら行ってもいいかなと思い、そう返信する。藤原くんも早い内に絶対ハンカチ返すと言っていたから丁度良いだろう。


 それから道隆くんは私の予定に合わせて日時を決めてくれた。


 その後、話を聞いたのだろう藤原くんからもメッセージが届く。


『道隆くんが強引に誘ったみたいでごめんね。でも僕も楽しみだから、よろしくお願いします』


 道隆くんと違って真面目さがうかがえる文面。二人はまるで凸凹コンビのよう。だけどそれが仲良しの秘訣にも思える。

 なんだかちょっと羨ましい。


 道隆くん、藤原くん、私の並びで映画を観る。ポスターを見ただけで感動必至なそれを選んだのは藤原くんだった。


 やはりクライマックスでは涙が流れる。隣からも鼻をすする音がしていたので藤原くんも泣いているのだろう。


 エンドロールが終わり場内が明るくなる。隣を見ると藤原くんはまだ涙をこぼしていて、それを見た道隆くんがポケットティッシュを出す。


「1枚しかなかった。拭けよ」


 しかしティッシュはあっという間に用をなさなくなってしまった。


「良かったらまた使って」


 映画前に返してもらったハンカチを鞄から出すと、藤原くんは顔を横に振った。鼻声で「でも」なんて言うから、私は問答無用でハンカチを彼の目元に当てる。


「ごめん、……また洗濯して返す」

「うん。いつでもいいよ」


 下を向いていた彼の口端が上向きに変わったのを見て、私の胸がきゅっと震えた。


 映画の後はどうするんだろう、と考えていたが、残念ながらそこで解散となる。


 藤原くんはしきりにハンカチのことを謝っていたけど、ハンカチのお陰でまた会える機会が出来たので私の心は弾んでいる。


「今日楽しかった。だからまた近い内に……遊ぼ?」


 自信なく語尾が震える。お前が僕たちを誘うな、なんて思われてたらどうしよう。

 だけど、目の前の二人は笑ってくれた。


「次は車出すし俺。どっか行こうぜ」

「車持ってるの?」

「親の車。滅多に乗らねえから大丈夫! ヨシどこ行きたい?」

「僕より源さんは?」


 行き先を振られても行きたい場所が思い浮かばず、視線を横に向ける。どこに行っても暑いよな、なんて思いながら店先に貼られたポスターで目が止まった。大学の掲示板にもあったそれ。


 二人もそちらを見たのだろう。道隆くんが「花火大会?」と言う。


「うん。2週間ちょっと先だけど」

「いいよ。行こうよ花火大会。僕も行ってみたい」

「じゃ、行こうぜ」


 3人で頷いて笑う。それだけでとても楽しい気持ちになった事は間違いない。

 

 映画を観たその晩。

 藤原くんからメッセージが届いた。


『今日はハンカチをまた借りてしまいごめんね。きちんと洗濯して返します。源さんは好きな物ありますか?』


 律儀なメッセージに笑いつつ、好きな物を考えてみる。


 ぱっと浮かぶのは文房具、小動物、甘い物。


 素直にそう返信すると、


『かわいいね。源さんらしい気がするよ』


「か!?」


 頬が熱くなる。かわいいって何?

 自分に言われたような気がしたが、改めて文面をよくよく見ると、それは文房具や小動物、甘い物に対しての言葉だろう。


 そう、決して私の事ではない。

 かわいい(物が好きなんだ)ね、と言う意味だ。


 だから私は冷静に『ウサギとかリスとかかわいいよね』と返信する。


『ちっさくて可愛いよね。文房具はペンとかが好きってこと?』


 そうだよ、と送り返しながらメッセージのやり取りが楽しくなっていることに気付く。

 返信が待ち遠しい。


 週末。バイトが終わりスマホを見るとメッセージが入っていた。


 送り主は藤原くん。あれからやり取りがずっと続いている。藤原くんからのメッセージは穏やかな気持ちになる一方、ドキドキもする。


 知らない事もたくさん知っていて、「それって何?」と聞いたらおごることなく優しく教えてくれる。尊敬できる相手との会話は心地良い。


『文房具好きって言ってたでしょ? オススメってある? もうすぐ道隆くんの誕生日なんだ』


『プレゼントに文房具あげるってこと?』


『ペンとかどうかな?』


 藤原くんはプレゼントしたいもののイメージがあるようで、私にそれを伝えてくれる。

 私は私で色んなペンを提案してみるのだが藤原くんはピンとこないみたいだ。


『私もペン買いに行きたいし、良かったら一緒に文具屋さん行ってみる?』


 間髪入れず『行く』と返ってきて、私は一人ロッカールームで破顔した。

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