第3話 夢
その晩。夢を見た。
どこか懐かしいような夢。
白い着物の男性が床に臥している。
もう長くはないのだろう。私が泣くと、泣かないで、とか細く返ってくる。
にじむ視界で男性の顔を見ようとして、――そこで夢から醒めた。
起きた私は鼻で笑った。
「どうかしてる」
大学のレポートのため、百人一首から一句選び、その句について考察していた。
平安時代についての本をたくさん読んだせいで、あんな夢を見たに違いない。
私が選んだ句は、
君がため をしからざりし 命さへ
ながくもがなと 思ひけるかな
夢の中で臥していた男性はこの詠み人だろう。この人は21歳で亡くなっている。
「21歳って今の私の年だし」
この人は結婚相手に会うまで、自分がいつ死んでもいいと思っていたのだ。
しかし結婚相手に会ったこの人は、いつまでもずっと一緒にいたいと思ってしまう。
意味を知ったとき、切なくて苦しくなって泣きそうになった。感情移入してしまったのか、私はこれ以外の句を選べなかったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます