第3話 夢

 その晩。夢を見た。

 どこか懐かしいような夢。


 御簾みすの内、何枚もの色を重ねたうちぎを着た私。

 白い着物の男性が床に臥している。


 もう長くはないのだろう。私が泣くと、泣かないで、とか細く返ってくる。


 にじむ視界で男性の顔を見ようとして、――そこで夢から醒めた。



 起きた私は鼻で笑った。


「どうかしてる」


 大学のレポートのため、百人一首から一句選び、その句について考察していた。

 平安時代についての本をたくさん読んだせいで、あんな夢を見たに違いない。


 私が選んだ句は、


  君がため をしからざりし 命さへ

  ながくもがなと 思ひけるかな


 夢の中で臥していた男性はこの詠み人だろう。この人は21歳で亡くなっている。


「21歳って今の私の年だし」


 この人は結婚相手に会うまで、自分がいつ死んでもいいと思っていたのだ。

 しかし結婚相手に会ったこの人は、いつまでもずっと一緒にいたいと思ってしまう。


 意味を知ったとき、切なくて苦しくなって泣きそうになった。感情移入してしまったのか、私はこれ以外の句を選べなかったのだ。

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