第32話 母と父 2
孤独
だろう。
母神の眉根が寄る。
それでも笑顔をたたえている。
「寂しくて寂しくて。でも、今日からまた一緒に暮らしましょう」
「断る。貴方の孤独を癒すために私はいるのではない。大地に落ちれば貴方は追ってこれまい?」
「許しませんよ。貴方の愛しい方というのも、永遠に」
「今度は脅しか?」
「父様に言えば、貴方達など永遠に閉じ込めてしまえる。天に帰れば、私が何度も殺しましょう」
母神が私を片手で掴んだ。
「行けるものなら行ってごらんなさい。私が愛する者よ。人間だけを、過保護に守ってきた私のささやかな罪よ」
「離せ、変態ババア」
初めて穏やかな笑顔が崩れた。
ぐん、と掴まれた身体が上昇する。すごい空気の圧だ。
瞬きさえ許されない、息も吸えない。内臓が外に飛び出てしまいそうな程の勢い。
(喰われる!!)
そう思った瞬間、ポイっと投げ出された。
ひゅるひゅると逆さに下降していく。
逆さまの光景に目を見張る。
母神は腹が膨張している。
沢山の光を放ち、それが血管を浮かせて、薄く、薄く伸びる皮膚は
遂にはち切れた。
轟音と、数多の光。
その光はてんでの方に散らばっていく。
目一杯遠くに飛んでいくものもあれば、すぐ下に落ちていくものもあった。
しゅうしゅうと蒸発していくような母神は大地へと手を伸ばす。
「ああ、貴方…」
しかし、その指から光が漏れ出ていき、爪先から徐々に消えていく。
どくん、と大地が鳴動する。
低く、くぐもった声が聞こえてきた。
-何万年もの知識を得て、お前はどうなった?-
「私?私はずっと役目を果たしてきただけ。空気がそこにあるように、宇宙がただ広がるように、星が生まれて軌道を巡るように」
-世界はただそこにあるだけだ。蓄えすぎた知識に殺されるなど、愚かだな-
「待つのです。行ってはいけない」
もう指もない手で散っていく光をかき集めようとしている。
-もう終わりにしないか-
その言葉に、一瞬止まったかと思うと、けたたましい絶叫をあげた。
様々な文字が母神を取り囲んでいく。
相変わらず、微笑みを湛えたまま、目から血の涙を流して大地へと手を伸ばすが、どんどん腕が消えていく。
光る沢山の国の文字は回転し、母神は耳鳴りのような声で叫んだかと思うと、ブツンと音を立てて消えた。
後には何も残らなかった。
-俺はお前達の愛を近くで見てきた。歪な愛だが、それがお前達らしさでもある。歓迎しよう、大地へようこそ-
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