第12話 アイリス奪還作戦 2

ドン!!


突然轟音が響き渡る。


ドンドン!!



「なんだ、山でも噴火したか?」

その時、一人の式が俄に慌てて駆けてきた。

衣擦れの音がする。

「失礼します。主様、人間が祠に向けてなにやら攻撃を仕掛けております」

「捨て置け。どうせこの世界に干渉することはできない」


ドンドン!!

ドンドン!!


「音だけはやかましいな…」

「アイリス様の父君もいらっしゃるようです」

「父も!?」


抱きしめられたまま、エランシスは耳元で問う。

「どうする?君の父上だ。会って話がしたいのなら取り次ごう」

「それは…恨み言の一つも言ってやりたいですけれど…」


この音は不穏だ。






祠の前で喚く声がする。


「アイリス王女を出せ!さもなくばこの祠ごと消し炭にしてやろう!」

カーターは威勢よく叫んだ。

そこへ


「おやめください」


カーターと父は目を凝らして、慌てて砲撃を止めさせた。

「射ち方待て!!」

「アイリス、アイリスなのか!?」

「不思議な格好をしているが、アイリス様でいらっしゃるようです」

父はその言葉に、こくこくと頷いてこちらに歩み寄った。

が、その歩みが止まり後ずさった。

私の後ろにいる魔物に気付いたからだ。


「アイリスを離せ!魔物め!」

父は以前よりも丸くなった腹を揺らす。


「何の許可があって私の祠に物騒なものを向けるのです?」

白い肌から青筋が立っているのが分かる。

それでも穏やかな口調で父に問うた。

一歩、エランシスが前に出ると、薄紅の花びらが舞った。

ちっと鬱陶しそうな舌打ちが漏れる。


それだけのことなのに、目の前の人たちは、まるで世界が滅びる呪文でも唱えたかのような騒ぎようだ。


その騒めきを鎮めたのは他でもない、カーターだった。

「アイリス王女をお返し願う。僕はアイリス王女の父君、国王陛下に乞うて、王女を連れ帰りに参った」

そして、と言って続けた言葉に驚愕する。

「国王陛下の許しを得、アイリス王女と婚約を結んだ」


驚いて父を見ると、私の知らない強気の目をしている。

「魔物と結んだ契りなど、我々が守る義理はない」


私は怒りで震えた。

「黙っていれば…好き勝手に…」

だが、私の言葉は風に消え、にこやかな声が聞こえてくる。

「アイリス、カーター殿下と婚約すればこの国は安泰だ」

「アイリス王女、魔物などこの大砲を前になす術もありません。さあ、僕と共に帰りましょう」

整った髪、傷ひとつない高そうな武具。

もしエランシスに攫われていなければ、カーターの装飾品の一つに治る人生だったのだろうか。


「黙ってください!!」


しん、と静まりかえる。


「私を魔物に差し出したのは父上です!それを黙って見ていたのはカーター様です!」


父もカーターもポカンとして見ている。


「アイリス…だからこうして助けに…」

父は心底訳が分からないという顔だ。


「今更…今更誰が帰るか!!バーーーカ!!!」

はあ、と息が乱れる。


「アイリス!なんという…。心まで魔物に下ったか…」


見ると、エランシスは笑いを堪えている。

「だ、そうだ。どなたも皆それぞれお幸せに。くくっ…それでは」


エランシスと二人で光の中に帰る。

完全に光に飲み込まれるまで、花びらが無数に舞った。


「射て!!!射てえええ!!!」





ドンドンという轟音は三日三晩続いた。

五月蝿かったけれど、それもやがて止んだ。


私がここに留まることを望んだのだけれど、父の限界は三日だった。

複雑な気持ちがする。



「王女様は口が悪いな」


それでもエランシスが隣にいて笑ってくれたので、それでもう、何もかもがこれで良かったと思えた。

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