第10話 アイリス奪還作戦 1

この国の王は、その提案に二つ返事で了承した。



ただひとつ文句を垂れるとすればそれは、

(なぜもっと早く言わなかったのだ。カーターめ)


腹で思っていても、顔には出さない。


「以前からアイリス様をお慕い申し上げておりました。あの時、魔物の前で我々が何をできたというのでしょう。皆忸怩たる思いで今日を迎えているのではないですか?国王陛下もそうでしょう」

「うう、む…」


お互い成人している上、アイリスとは何度もパーティで会っているというのに、婚約の申し出は今までなかった。

目の前の男は沢山の令嬢の中で悩み、決めかねていたのではないだろうか。

それが、あの日魔物に攫われて、二度と自分の手の届かないところへ行った時、


どうしようもなく欲しくなった


そんな風に感じる。

これは、王としてではなく、父としてでもなく、一人の男としての直感だった。


だが、今はそんなことはどうでもいい。

隣国は軍事力に長け、経済的にも豊かだ。

アイリスがカーターのもとへ嫁げば、ゆくゆくは子宝に恵まれるだろう。

二人の間に男子が生まれれば、第一王子は隣国の王太子になるだろうが、続く第二王子は、この国を治める王太子として迎えることが叶う。

そして、いずれは強国の後ろ盾を持った国王ということになる。そうなればこの国は盤石だ。


「アイリス王女を取り戻すには、我々と手を組む必要があります。そして、これからの未来を共に歩んで行こうではないですか」

「だが、だがな…相手は魔物だ。二百年前どのようにして封印したかも定かではない」

「僕の国をあまり舐めないで頂きたいですな」

キッパリと、よく通る声で言った。

広いホールでカーターの声はよく反響する。


「大陸から仕入れた最新鋭の大砲を所持しております」

「なんですと!?」

それは軍事機密だ。

こうもペラペラと暴露して良いものだろうか。

この男は信用できない。

王の頭で警報が鳴る。


「その大砲は二連続で射撃が可能なのですよ」


その言葉に生唾を飲み下した。

(この男とは手を組まない方がいいだろう)

だが、一度は了承した手前、断ることは非常に難しい。

表情は変えぬまま、それとなく断れないか道を模索する。


「だ、だが相手は魔物ですぞ…人間ならばいざ知らず、二連射できたからといって…」


カーターはくつくつと笑った。

「王はまだお分かりにならないようだ。我々がその位で自慢するとお思いですか」


王は大きな目をもっと大きくした。


「その二連射の大砲が百門。魔物を集中砲火できます」

いいですか、と言って続ける。

「五十門がまず二連射。その五十門に玉をこめている間に、控えている半分が二連射。玉を込め終えた先の五十門が二連射している間にまた半分に玉をこめる。実質連続射撃です。さて、私の作戦に疵はありますか?」


王はその圧倒的な軍事力の差を前に、額に汗が伝った。


「軍事機密を暴露させておいて、まさか断るなどということはありますまいな?」


(しまった…!)


妙だとは思った。

だが、もう遅い。


「それだけではありません。アイリス王女の奪還が叶った暁には、この国を経済的に大いに支援しましょう」



その魅力的な言葉に、王は頭の中に鳴る警報を切った。

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