正統な継承者

 我が兄貴はまさしく『銀堂家当主に成るべくして生まれて来た』といっても過言ではない尊敬すべき男。あんなに自分に成ってくれなどと懇願してきた父でさえ「残念だったな、次期当主はお前じゃないぞ」と、通常ならクソ発言なのだが、実際そうなのだから異論はない。


 他の候補者や住み込みの人間ですらその件については肯定的で、かの地に祀られている土地神様さえ「あいつがもうそこの神様で良くねえか」と、引きながらも次元上昇の足が掛かりに利用されるほどの人格者である。


 現在段階の実績にしても、狂信に酔った一族の目を覚まさせ、ほぼ潰れかけていた銀堂家や事業を立て直し、さらなる発展に貢献を続けるまさに生きる偉人だ。


 この活躍は後日談にしても兄貴は、幼少の頃から「銀堂家の歴史に残る男になる」ことを目標に日々勉強や精神の鍛練「将来の仲間になる人間に唾つけとく」と言って、自分の苦手な集まりに代わりに行ってくれたこともあった。


 その立ち振る舞いが今に活かされているのだから、一人のビジネスマンの見地からしても「カッコイイ」などと称賛してしまっているあたり、性別が間違っていたら危なかったところであろう。


 冗談はさておき、皮肉にもそれらの理由が自分が『当主に成りたくなかった』大きな要因であって『当主に成る』という決め手になったわけだ。


 まったく、良い感じに羽目られたものだ……。


 そうなってくると何故、父はその兄貴に家督を渡さなかったのか。別に仲が悪かったわけではない。かえって、一緒に飲み交わしてぶっ倒れるほどに良好だった。


 親子というものは否定しても離れても似ているところが出るらしく、父から貰った要素が頭の固さなら、兄貴が引き継いだものは電話の通話嫌いのとこだろうか。その点は父よりもヒドイ。したがって、直接じゃないとまず会話することが不可能だ。


 もしも兄貴自ら電話なんてかかってこよう日には、空からカエルが降ってきてもおかしくない。実例として、金魚くらいなら降ってきたことはある。


 兄貴曰く「メールはギリ大丈夫。通話は吐き気を催す」ということだそうだ。


 だから、遠方の連絡に関しては右腕である幹部か、今なら兄貴の嫁である義理の姉に言伝を預けた方が話が通るという何とも奇怪な受信方式が取られている。


 まあ、携帯よりもPCの方が好きだという兄貴だ。難点ではあれど愛おしいとこ。


 その影響で当時、兄貴は海外の仕事が忙しかったため連絡が取れなかったようで、代理でも良いから立てたかったのであろう。それで自分に白羽の矢が立ったのだと、ここでは浅く記しておこう。本音はまた別だと、今では識っているからだ。


 こういった背景があり、当時の自分は『代理でも当主に成るのもイヤだった』し、何より『兄貴に代わって当主を得るなど烏滸がましい』と本気で思っていたから、たとえ、現当主からの直接の懇願であっても簡単に跳ね退けてしまい。


 むしろ、気が触れているのだと思い「もういい加減にしろ!」と怒鳴り続けて「一回、医者にでも頭を見てもらってから要件を持って来い!」と冷たくあしらい。その勢いのまま外に出て母に「気が狂っているようだから今日中に病院にでも連れて行け」と、辛辣な催促をとりつけ、その場を振り返ることもなく自室へと帰った。


 この時、両親はどんな顔をしていただろうか。そこは気になるところではあるが、そこら辺は死後に魂の清算があると思うから、その時にでも確認しておこう。 

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