銀堂家当主に成るという意味

 そもそもの話として、なぜ自分がここまで『銀堂家の家督に成るのをイヤがった』か。自分のことを棚に上げていうが、一つ目は何の説明もなしに『当主に成ってくれ』と、頼み込まれた意図が分からなかったこと。


 二つ目、三つ目は『当主に成る意味』に次いで『その意味に適合する最高の人間』を識っていたため、全く話を読めなくとも「自分が成るべき存在ではない」とはっきりしていたから、その場で当主の頼みを突っぱねることができた。


 いきなり結論から言っても疑問符だらけになってしまっていることは明白だと思うからその背景について説明を入れておく。 


 まず、何故『当主に成りたくなかったか』について。いっけん、家督を譲ってもらえることは良いように解釈しがちだが、成ったときにのしかかるデメリットを考えてみればイヤがった要素がいくつか散見できるはずだ。


 当主に成ると確かに自由に使える金は増え、土地と家名を売らない限り基本何でもできるが、多くは家のため、一族のために資材は投下される。下手に私利私欲で財源を使ってしまうと、その隙を見計らい余計な虫たちがたかり、キモイからなどと不用意に露払いをしてしまえば、予想外の事態などに巻き込まれ指どころか腕さえも持ってかれて、地位や家族、自分の命も生活も奪われかねない。


 仮に愛する者が現れた日には避けられない軋轢が生じ、たとえ無関係な立場になったとしてもその因縁が一生付き纏い、決して一般的な日常を送ることは赦されない。

 

 実際「そんなこと知るかよ」と意気揚々に家督を得て、羽目を外し贅沢三昧の毎日に現を抜かせた結果、百二十年も続いた家の歴史を食い潰す愚かな盟主や、組織に入ったたった一匹の女ネズミにより中が食い荒らされて、徐々に瓦解してゆき音もなく消滅していった名家など、散々この目で見送ってきた。


 ここまでなら一般的な観点からでも理解はできるはずだ。しかし、うちにはさらに『当主に成る』にも一定の条件が存在する。


 それは『受け継がれてきた土地と家名を護る、人格者に成る意思があるか』という誓いが立てられるかどうかである。他にも条件はあるにはあるが、上記のことが満たせなかったら権利自体発生しない。


『人格者に成る』と、耳にすると気難しい印象を持ってしまうのだが、端的に言えばその事項を満たして成ってくれるなら、血筋の有無に関わらず『銀堂家当主に成れる』権利が付与される。なんとも太っ腹で寛容性な仕様となっている。


 故に外部の人間も巻き込んだ家督争いが行われて、死人も出た歴史があるが趣旨から外れるから別の機会にする。


 前例として『東雲大輔しののめだいすけ』という外部の人間が家督を得て『四代目当主、東雲大輔』に成った経歴があり、その仕様の整合性はとれている。


 そしてここからは個人の言い分として、ほぼ愚痴になるが付き合ってもらう。イヤなら飛ばしても良い。あとは読者に任せる。


 一度その立場に成った人間の意見としていうのもなんだが、家の人間のほとんどは嫌いだった。一応、上記に出てきた人間は許容範囲であることは先に述べといて、あと三人くらいは信頼できる一族はいる。誰かは追々紹介する。


 家の人間は基本、臆病で傲慢な性格をしていて、そこにプラスアルファ―でデフォルトの性格が乗っかっているような人間が大半を占めている。


 家に遺る伝承を参考するに土地神様が銀堂家を護るために結界を張り、その周波数や想い、知り合いの言葉を引用するなら『世界を描く顔料』というべきか。『初代銀堂家当主、銀堂渚ぎんどうなぎさ』との契約により生じたものらしく、にわかには信じられないかもしれないが、一族以外にその影響は発生していない。


 別件として、家を潰そうとして連中は皆その加護のおかげなのか、自動排除されて生きていても碌な目に遭わないそうだ。間違ってもケンカ売らない方が良いと、忠告だけはしておく。滅ぼされたいなら別だが。


 話を続けて、特に現在では是正されたが荒御霊信仰が幅を利かせていて、ルールを守れば被害はそう出なかったものの違反をしたのであれば、蹴りや罵倒が飛んできて精神的にキツく、早くこの家から出て行きたいと渇望しながらも多く時を過ごした。


 最もそのピークが中学のころで女子にイジメられていた時期とも重なり、精神が崩壊していたのによく生きていたと自分で自分を褒めたいくらいだ。そのせいで、身体的にも異常が出るようになったが、この話も追々。


 その結果、家にいる人間が嫌いでいつも鬱陶しいと想い想いしつつ、どこかでこの怨恨をぶち撒けてやるかと鬱憤を溜めていたほどだ。まさか、当主に成ってそれが果たされることに成ろうとは運命とは惨いものだ。


 他にも、当主の立場も込み込みで母の世話もしないといけない余計な手間も存在して「大人なんだから後処理はしろよ」と文句をつけたいが、放置しておくと先に記載した通り、誤解が誤解を生んで事件化する事態にも成りかねないから、何度も頭を抱えさせられたものだ。


 以降も母のトラブルメーカー健在であるが『適任者』のおかげで、むしろ手札の一枚として制御されている。


 そう、その適任者こそ、現在の当主にして歴代最高傑作と呼び声も高い人物。パンジャガールと五代目銀堂家当主との間に最初に生まれた嫡男にして、自分の実の兄貴。その名も『銀堂晴彦ぎんどうはるひこ』である。

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