候補者たちの揚げ足取り
「とは言っても、その肝心な暫定当主様ご本人は不在なわけだから保留同然だよな。それにここにあのボケナスが来ても『イヤ』というのが関の
「まあ、叔父上の言い回しには腹が立ちますが、内容はまともなことなので容認しますよ」と湊は冷静に対応。
「うーん、確かに遊学くんには悪いけども、容易にその光景が想像ができますし。ここは己が認識している銀堂家の現状や問題点を挙げてもろて、推薦候補を決めてょうが良いでしょうね」と宗谷は事の方向性を提示した。
叔父たちの節操のない言葉にやれやれとは周囲は思いつつも、その発言に乗っかり、『第二の候補となる人間を決める』議論が始まった。
「じゃあ誰から発表するんすか。年長さんの浩司殿からやってもらう?」
「おおジェントリ、気が利くことを言ってくれるじゃないか。一票は貰った」
「ブッ」と花音は口を抑えて吹き出た。
一時的に彼女に注目が集まったが、ここでツッコミを入れてしまうとペースを持ってかれると考え、多くは視線を浩司の方に向けて次の一手に耳を傾けた。
「わしの見立てでは、この銀堂家は長く持たないと考えている。その理由は二十五年前の争奪戦で発生した費用。知っての通り、五代目が妻を娶るために掛けた十億も含む借金などの負債が尾を引いた結果、借金は返せたのは良いが家が虫の息になってしまったのは大きな痛手だと思っとる。確かに漢の決断としては、素晴らしいものであったことには間違いないが……おそらく、その影響によってこの代で最後だろうな」
「わお、銀堂家を終わらせるとはまた大胆な発言を」
「まったくオブラートに包んでいても漏れ出すくっさい内容だ」
「言ってることは分かるが、それ当主に成る人間がいってい良いの?」
「いいんじゃない。最高にして最低なライン引いてくれたんだから」
「それが目的ならプロですね……」と、健吾は苦笑いした。
この会話で気になった点として、『五代目が妻を娶るために十億を払った』的なことを言っていたと思う。これは五代目、父が母を毒親から切り離すために『八芒星司祭の家から借金して払った金額』である。
話すと長くなるから搔い摘むのだが、母方の両親は姉ばかりを可愛がり、母のことを召使い程度にしか扱っていなかった。中学のころに死のうと母は決意していた。けど、そんなときに父に出逢い、中卒で働かせようと両親は謀っていたが、それを阻止して大学まで行かせて、成人したときに金を搔き集め家族の縁を切らせた。
お金についての知識がないと、その毒親がめちゃくちゃ得をしていると思ってしまうが、むしろ逆で借金地獄の片道切符を渡して、とんずらしたという形が正確だ。
貰った瞬間に浴びるように使ってしまって生活水準を戻せず、税金を納める地獄にハマっているのが目に浮かぶと、笑う自分の両親を見て、兄貴も自分もお金の扱いには注意しようと肝に銘じさせられたほどだ。
「次は湊っちはどう思う」
「ご指名されたから、言わせてもらう。過去の出来事を抜きで鑑みるに、実際一年も持つかどうかわからないというのは紛れもない現実だ。だからと言って、終わらせるつもりはない。当主に成った暁には、新しい事業を立て資産の増加を目指そうと考えている。博打だが何ももやらずに終わるよりかはマシだ」
「真面目で無難な回答だな」と宗谷はフムフム頷く。
「ですね」
「そうね」
「異論はありません」
「そんなところだろうな。頭いいでちゅね」と、叔父は嘲け褒める。
あまりにも無難すぎて自分もいうことないと、本人の前で言って「お前が言うな」と軽く小突かれたことを思い出す。
「そんじゃ次は宗谷の主張でも訊きますか」
「お、次は俺。そうだな、花音くんの意見を聞いた上で言いたかったのだが……いいや、俺の考えとしては身の丈に合った規模に縮小すべきだと見定めている。体がデカすぎて食料が無いのであるならば、コンパクトすることで余計に食い潰さずに済む。別にサイズ変更できない動物じゃないんだ。簡単な話だろ」
「なるほど、現状維持を目指すということですか」
「相変わらず合理的考えをしている」
「ガハハ。それって、いつでも食べてくださいと言っているようなもんじゃねえか」
「必ずどこかで出てくる発想ね」
「リスクを減らすのもまた手ですか……」
宗谷が言っていることは論理上は間違ってはいない。けれど、もしこの行動を自分が取っていていたらヤバかったと思う。生物として捉えたら合理的かもしれないが、事の本質は氷のような物で、時間が経てば完全に消失していたと今なら言える。
物事の捉え方を間違えると、そういう事故は起きやすいものだ。
「続いて花音の姉御オネシャス」
「はあ、その言い方は気が抜けるからあまり言わないで」
「はーい」
彼女は一度咳払いし「私の意見としては、うちの家に借金している人間からお金を取り立てるか、その人たちを捕まえて、搾取するのはいかがかしら」
「うわ、怖っわ……」と、小声で健吾は震えた。
「まあ、社会の本質だよな」
「捕まえるだけでも面倒そうだ」
「相変わらず、女の考えること怖いのう」
借金している側としては溜まったものではないことは明白だ。何人か捕まったところで逃亡されるのがオチだとは思う。けど、そういう悪魔的な発想が無ければ、好転しない出来事があるのもまた事実である。
「最後、健吾っちはどう考えている」
「僕は、救世主を待ちたいと思っています」
「……」
「……」
「……」
「……」
「「「「「え?」」」」」
体感三秒ほど遅れて出てきた反応に皆、唖然とし動揺とした。
「救世主とは?」と飛鳥は代表として訊いた。
「……僕が思うにここには救世主はいません。もし、いない人を挙げるのであれば、遊学くんか晴彦様の方が適任だと思います」
「はあーアホかお前は、この銀堂家の未来を考えている現場に来ないヤツを指名してどうする。来たところで最初から信用は地に落ちて穴が開いてるというのに」
「あまり強く言いたくないが、やる気のない人間に当主など務まるわけがない」
「そっすね。いくら力量があっても、やると言わない限り可能性もないしな」
「その二人かのどちらかに成ったら僥倖だけど、現実はそんなに甘くないわ。不幸であろうとこの中で決めないといけないの。わかる?」
候補者に詰められて足を掬われ怖気ついてしまっていた。でも、そんな渦中だからこと彼は語り始めた。
「彼らのどちらかは必ず来る。僕はそれを信じています」と
メモ 大砲とトラック
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