選別と餞別

待ち合わせ

「来ねぇ……」


 待ち合せの銀天通り公園の時計を見やると、約束の時間から一時間半も過ぎているが彼女の姿は見えない。三十分前に一度、携帯の連絡アプリから少し遅れると通知が来ていたが、その後の音沙汰はなし。


 何か事故にでも遭ったのか、なんて心配の感情が過ったけども、その思考の矢が途中で撃墜されたかのような感覚を受信したから考えるのをやめた。


 蛍の一件もあるから待つことには苦ではない。だからと言って、いつまでも悠長に待つほど優しい人間でもない。待つのがイヤになったら、速攻帰る。それは自分の中で引く潮時と思っているからだ。


 さらに十分が経過し、名残惜しいが帰ろうとしたとき「え、まだいたの?」と女性の声が聞こえたので咄嗟に、その方向に視界を回して対象を見た。そこには今回のデート相手である相坂要が棒立ちで戸惑い断っており、走って来たからか少し服が寄れていて、履き慣れていないのか、パンプスの底がすり減っているのが確認できた。


 後日付き合ったあと遅れた理由を説明された内容になるが、要曰く、予定の三時間前から準備万端にして出かけたが、最初に履いていたハイヒールのヒールが水路の穴に嵌り抜けなくなってしまったそうだ。悪戦苦闘すること三十分くらいして、抜けたがそれはグラグラさせてヒビが入ってしまった影響で、ピンが抜けてしまい無駄骨となったと語った。


 どうにかして靴だけでも確保しようと靴屋に寄って、厚かましいセールスのおばちゃんに捕まって永遠と話をされて一時間飛んでいた。その後、バスに乗り遅れ、そのバスが事故に巻き込まれたとかで遅延が発生。発想を転換してタクシーを捕まえられる駅の方に歩いて、さらにロストして、もういないだろうなとは思ったが、この通り居たから驚いたそう。


 中学のころの自分なら「大変だったの」と声をかけていたかもしれないが、高校で感性をいじられた点によってその時「それでも来てくれたんだな」と陽キャでもそこまでは言わない評価をして、要がゆでダコになっていたのを印象的に覚えている。


 そんなことは露知らない段階であったが、彼女が来てしまったから帰る気はなくなり「行くぞ」と放心状態の要に言った。


 要は「え……怒らないの」とタジタジになっていた。変に説明するのも面倒だったから「来ないよりかはマシだ。融通が利く店だから気にするな」と無理やり納得させ、目的の料理店に足を運ばせた。

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