リザンテラ
維 黎
野に咲くことなかれ
夜空に瞬く星々をかき消すほど、光のレーザーが無数に乱反射する
しかし野球の試合が行われている訳ではない。
収容人数3万8000人。満員御礼を熱狂させているのは一人の
煌びやかな
その肢体からは汗しぶきが飛び散っていたが、色とりどりの光を浴びて輝くことで、それすらも演出の一つとなるほどに球場全体が一つとなって盛り上がっていた。
これほど多くの観客を魅了させるのは、類まれなる才能と弛まぬ努力があったればこそだろう。
しかし、その"努力"の影で悲しむ者も、泣く者も、そして――亡く者もいる。
「――
「――状況はどうだ?
「――
球場の近隣に建つビルの一つ。
ショッピングモールや映画館、ホテルなどが入る複合商業施設は地下3階、地上38階、高さにして約180m。その屋上から
今宵、3万8000人を魅了する歌姫たる彼女は死ぬ。
「――"ヒマワリ"
「――"ユリ"
全身を黒のボディースーツで包んだ
ぴっちりとしたスーツ越しのボディラインの曲線美から、ユリと自称する者が女であることがわかる。
本名ではない。
彼女は――彼女たちには何もない。
家族も友達も恋人も。
名前だけでなく社会的に必要な戸籍なども捨て去った"
何もかも嘘と欺瞞で再構成された彼女たちが持つ唯一の
【リザンテラ】
地下や地底で花をさかせる謎が多い植物。腐生植物とも呼ばれ、自ら光合成はせず動植物や菌類から栄養源を摂取している花。
(※注 物語上の設定として一部作者が改変しています)
そして彼女が属する殺し屋の組織の呼称でもある。
世界は
歌手を目指す女の子たちがいた。
競い合う内に一人、また一人と脱落していき最後に二人だけが残った。
一人は美しく煌びやかな、しかしそれだけの少女。
一人は穏やかで慎ましく物静かだが、言葉には出来ない人を惹きつける何かに溢れた少女。
勝てないと思った。自分は美しく煌びやかなのに。
悔しくて努力した。努力して、努力して。あらゆる努力した。そんな努力の中の一つが彼女を殺した。
乱暴され、首を絞められて殺され、ドブ川に沈んだ少女。
直接手を下した訳ではない。そうなるように努力しただけ。
だから"リザンテラ"のユリが殺す。
正義ではない。
使命ではない。
恨みではない。
狩人が野の動物を狩るように。
死人として生きていくために。
ターン!
銃声が響くと同時に歌姫の胸をホローポイント弾が命中し、内部から炸裂する。その為、仰向けに倒れた歌姫は
裏から見れば命は等価値ではないが、死は善悪問わず平等だ。花は手向けなければならない。
「――
「――"ヒマワリ"
「――"ユリ"
これで
またしばらくは生き永らえるだろう。
どうでもいいことではあるが。
ユリはライフルをバラしてケースにしまうと、肩に担ぎつつコンサートが行われていた球場に視線を向ける。当然、肉眼では
何を想うこともなく、彼女は背を向けるとその身を闇へと沈めていった。
彼女は"リザンテラ"。
闇が漂う地底に咲いた花。
――了――
リザンテラ 維 黎 @yuirei
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