第11話ドーハの歓喜、やはり奇跡、それも2度も!

 現在、UAEアラブ首長国連邦、アブダビで12月2日午後の4時で帰国のトランジットの8時間待ち。あのスペイン戦から16時間が経過。


 スペイン戦のハリファスタジアムの試合前に時間の針を戻す。日本の練習サイドは、正面から見て左側半分。座っている目の前で練習が始まる。日本選手、いつものようにゴールキーパー三人が先に出て、続いて選手全員の練習。選手の中に遠藤が復帰している姿を見つける。スペインは日本にだいぶ遅れて出てくる。日本の入場時以上の声援が湧き上がる。しかし、スペインは練習に出て来たのが遅いのに、引っ込むのは日本より早い。「もしかして、奴らは日本を舐めてるんじゃ無いか。これはもしかして、、、」と一瞬頭をよぎる。


 試合が始まると、さすがにスペインのパス回し、全体の統制が取れていて、後方から大きく両側に翼を広げて、時にその翼の部分が一気に縦にと切り込んでくる。そんな戦い方から、スペインが1点を取る。席からはちょうどクロスが上がるのが目の前で、「権田が出ないと、、」と思った瞬間に、クロスのボールはモラタの頭を起点に急角度に方向を変えて、ゴールに吸い込まれていく。時間も前半11分と、このままズルズルとコスタリカの様に大量失点をしてしまうかとも思う。


 しかし、今日の日本は少しづつボールを繋げてビルドアップを試みる。後半に入ると、初めから堂安と三苫を導入。堂安の代わりにアウトとなった久保はドイツ戦よりは良かったが、彼は今日も悔しい思いでのアウトとなる。


 堂安、三苫の導入で攻撃が一気に活性化。スタンドで見ていると、日本選手が次から次へとゴールへと迫り、蜂の巣を攻撃された蜂達が攻撃者に対して矢継ぎ早に攻撃を仕掛けるようでもある。そして一瞬の旋風が吹いたかの様に試合をひっくり返してしまう。堂安のクリーンヒットは文句なし。2点目の田中のゴールはその前の三苫のクロスがラインを割っていたかで、VARの判定にやたらと時間がかかる。その間、スペイン選手は、「これはゴールでは無い」と言わんばかりに、ボールをキーパーのキックの場所に置いて、無言の圧力をかけている。


 主審はセンターサークルを指し、ゴールが確定。何があるか分からないサッカー、逆転したのは良いが、今度は逆転したのが、後半3分、6分と早すぎると感じる。アディショナルタイムを入れると「まだあと45分か」と不安になる。

 しかし、今日の日本は次々と新たな選手を加え、守りに入るにではなく、積極的に更に得点を狙う意志をプレーで示していた。それが、スペイン側の攻めあぐねる結果をもたらした。勝ってる場面で秋田を入れて逆転された、フランスW杯予選の日韓戦、2点リードから数分で逆転された、前回のロシアW杯のベルギー戦。日本サッカーは悔しい、苦い経験から学習して、確実に前に進歩している事を実感する。


 アディショナルタイムは6分程度だったか、今回のW杯からプレーの賞味時間を重視するという事で、やたらと長い時間が提示される事からすると短い方だが、それでも長い。なんせ、ここはドーハ。あのアメリカW杯予選の悲劇が思い出されるからだ。


 ついに終了にホイッスルで歓喜の瞬間が訪れる。周りの人と、また握手やハイタッチで訳の分からない事を叫んでいた。ドイツ戦も振り返ってみると、日本のゴール、ドイツの2点、スペインの2点、どれも自分の目の前のサイドで見るという幸運にも恵まれた。


 今回のドイツとスペインに対する勝利を「ドーハの歓喜」と呼んでいるようだが、自分には「ドーハの奇跡」でしか無い。しかも奇跡が2回、W杯の本番で、しかもあの「ドーハの悲劇」の舞台のドーハで目撃できるなんて。


 なぜ歓喜でなく、奇跡かというと、今までの長いサッカーの歴史からすると、ドイツ、スペインに勝つなど冗談でも言えなかった。それぞれに対しての勝つ確率は10%未満である。それを覆す力が日本サッカーについて来たことは、紛れもない事だ。


 試合が終わり、シャトルバスで宿の帰ると午前1時半。午前2時に就寝、午前5時半に起床。それから1時間ほどで荷物をまとめて、7時過ぎに宿をチェックアウト。帰路に着く。これで自分のカタールW杯の旅は終了だが、この記録はまだ続けるつもりでいる。

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