第9話アメリカのグループリーグ突破に思うこと

現在ドーハ時間12月1日午前6時半。あとスペイン戦まで15時間半。

 次々と決勝進出チームが決まっていく。メキシコの様に、彼らにとっての新たな「ドーハの悲劇」も生まれている。そんな中でアメリカがグループリーグを突破した。このW杯でも、アメリカと日本だけだろう、フットボールをサッカーというのは。そんな事で、今日は私の思うアメリカのサッカーの風景を記録したい。


 アメリカでフットボールといえば、アメリカン・フットボールであり、人気も野球やバスケットボールを凌駕する。私も、1981年から83年まで2年間、アメリカ東部のフィラデルフィアという街にいた関係から、今でもその街のイーグルスというNFLのチームが贔屓で、今年は秋のシーズン開幕以来10勝1敗の快進撃で、週末になるとその結果も気になるところである。


 さて、そのアメリカのサッカーだが、サッカー後進国とも言われてきた。しかし、最近は随分と事情が異なっている。先のコスタリカ戦でも、入場のセキュリティの列の私のすぐ後ろに日本のユニフォームを着て並ぶ外国人に、「どっから来たの?」と聞くと、「アメリカ、ロサンゼルスから」との答え。ファンビレッジなどでも、アメリカのユニフォーム姿がよく見られる。前々回のブラジル大会の頃は、アメリカのユニフォーム姿のサポーターも珍しかったので、「君らはフットボールを間違えて来ちゃったんじゃ無いの?」などと冗談で話しかけたりもしていた。


 日本も1970年代はサッカー氷河期があったが、アメリカも1970年代はサッカーはマイナースポーツの一つで、いかに人気を出すかで苦労していた。その打開策としてアメリカでプロのサッカーリーグNASLが開設され、リーグを盛り上げようと、多くの有名選手が南米やヨーロッパから引っ張られて来た。ニューヨーク・コスモスにはペレ、ベッケンバウアー、キナーリオ、そしてワシントン・ディプロマッツには、ヨハンクライフまでメンバーに名を連ねた。どちらのチームも日本に来日して、代表と一戦交えている。ペレについては、引退記念ゲームを世界数カ所で開き、日本でも「サヨナラゲーム」を開いて、引退するペレを対戦した釜本選手らが肩に乗せて会場を一周する姿が記憶に残る。


 当時(1981〜1983)、アメリカに2年間いる中で、サッカーがどんな風景を見せたかであるが、アメリカは移民の国なので、移民の新住人や留学生には人気で、大学の空き地でよく彼らと草サッカーをした。たまにアメリカ人も興味を持って、「入れさせてくれ」と入ってくるが、押し並べて下手クソが多かった。

 大学のサッカー部も、その所属するリーグもあって試合を見に行ったりもした。しかし、大学所有の6万人収容のクラシックなスタジアムに、観客は数百人と言ったところだろうか。サッカーと一緒に当時はまだマイナースポーツだったラクロスの観客と並ぶ程度である。と言っても、アメリカン・フットボールも私のいた大学は強くなかったので、通常はせいぜい観客は1万人。流石に数十年ぶりにリーグ戦優勝を賭けたハーバード大との一戦には4万人以上が駆けつけた。


 その大学のサッカーの試合でいくつかアメリカらしいと思った点がある。まず主審、副審の服装。これが何と白黒の縦縞のストライプ。これはアメリカンフットボールの審判の衣装である。そして、コーナーキックのサインプレー。今でもサインプレーでのコーナーキックはあるが、この場合はあからさまにサインを送り、キックまで選手はゴールラインから一定の距離のところに一列に配置、キックと同時にサインにあった場所に散っていく。まさにアメリカンフットボールのプレイブックにあるような、それぞれが完全にアサインされたプレーというアメリカンフットボールならぬ、アメリカンサッカーである。


 近年のアメリカのサッカー人気はまずは女子サッカーから始まり女子W杯でサッカーの面白さが浸透し、女子から子供らへ広まった。男子の子供はまずはアメリカンフットボールを目指すが、親は怪我を恐れて、それでサッカーを進める家庭が増えたようだ。 


 アメリカの雑誌「ニューズウィーク」アメリカ版の最新号は40ページ近くを今回のW杯の記事満載で「スポーツイラストレイティッド」かと思ってしまうほどサッカー人気が変化している。


 アメリカのサッカーを考える時、他のスポーツの発展の歴史を見ると良いかもしれない。それはアメリカは移民の国であり、いろんな人種と文化の混ざった「人種のるつぼ」である。しかし、サッカーに限っては、まだ白人至上主義が残っている。野球にしても、アメリカンフットボールにしても、昔は黒人に参入を拒み続けて来た歴史がある。今では普通に黒人のクォーターバックやコーチがいるが、受け入れられるようになったのは1990年代頃だと思う。

 何を言いたいかというと、アメリカのサッカーの将来、この有望な隠れた才能の人材が人種差別なく出てきてチームとなった時、アメリカがサッカーの強国になると思う。


 各国のサッカーはよく音楽のスタイルに例えられる。ドイツは交響曲的、ブラジルはサンバ、アルゼンチンはタンゴ。最近は世界共通のサッカーになりつつあるが、それでも確かに見ていて、それぞれの国の音楽性やリズムに独特の特徴を感じる事がある。アメリカの音楽と言えばジャズ。即興で次から次へと宴者がメロディーを引き継いで一つの楽曲をなす。そんなジャジーなサッカーがアメリカに生まれたら、日本の強敵になるであろう。その時、日本、日本人の音楽性や感性にあったサッカースタイルが確立されて初めて日本も強国の仲間入りができると信ずる。

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