第12話(他キャラ視点エピソード) 魅了

「あ、が……。こ、れは?」

「流石にダンジョンの12階層から帰還したこともある探索者。分かっていたけど、その辺の女とは比べ物にならないくらい意思が強い。ただ、今の心が弱っている状態なら、『以前』のように中途半端では終わらない。それどころか……」


 ポーチを受け取ろうと手を差し出すと、まるで身体の内からどろっと甘ったるい何かが溢れ出そうになるような、そんな感覚が全身を支配した。

 鼓動はいつもより激しく速く、幸村慎二という男に視線を向けただけで、言葉に詰まる。


 ただこれに近い感覚は以前にも……2度。


 それは幸村慎二に告白された時、それと……私と肩を並べるために自分の可能性を信じたい、と初めて私の言葉を無視した遥君の顔を見た時。


「『超重力枷ハイグラビティパニッシュ』」


 全身をとてつもない圧力が襲って……でも何故だか抵抗しようとは思えない。

 それどころかダメージを負えば負うほど、その感覚は高まり、幸村慎二の顔が視界に映るだけで嬉しく思えてきた。


「あははははははっ! 俺のユニークスキル『魅了チャーム』は対象が憔悴していたり、ダメージを負っていればいるほど、効果が高まるのさ! さぁあなた……いや、お前も俺の女になれっ!」


 魅了(チャーム)……。

 そうか、この感覚に落ちることを恋というのね。


 歳をとったせいだと思っていたけど、あれだけ泣けたのは私が遥君に恋をしていたから……。


 だからそれに気付いていた幸村慎二は、遥君の訃報がテレビで流れたこのタイミングでこの家を訪れた。


 多分だけど当時私と付き合おうとした時もこの魅了チャームを利用していて、その時に得た教訓を用いて、確実に効果を発揮できるタイミングを自発させ、再び私に魅了(チャーム)をかけた。


 つまり、幸村慎二という男は……私に魅了チャームをかけるために遥君を殺した可能性がある。


 そもそもこの男は、早い時間からダンジョンに侵入しない。

 それが今回に限っては侵入していて、しかもたまたま遥君の死体に出くわすなんて……幾らなんでも都合がよすぎる。


「私を……。それだけで……あなた『様』は殺したの?」

「……流石、察しがいいな。本当は黙っているつもりだったが、もう魅了(チャーム)の効果を充分に受けているみたいだから話しちゃおうか。俺はね、並木遥が少しでも優位に立ったり、俺より幸せになるのが許せないんだ。それは並木遥が生きていようと死んでいようと。だから並木遥に対して美人な女性が恋心を抱けば、それを奪いたくなる。俺だけ親が居ないと分かれば並木遥の親を殺したくなる。並木遥が史上初のレベル100として語り継ぐられそうになれば、ダンジョン1階層程度で死んだ雑魚として泥を被らせたくなる 」

「そんな嫉妬……あなた『様』は、おかし――」

「口答えするな!『超重力枷ハイグラビティパニッシュ』」


 口から血が溢れるほどのダメージ。

 駄目、もうこの感覚、気持ちに抗えない。


「すみませんでした幸村様。だから、私を嫌いにならないで」

「そうか、そう思うならしっかりと奉仕しろ。それとお前が手に入れば……。あいつが嫌みで言ったあの言葉……『オロチ』討伐を実現するのも悪くないな。なぁ、お前もそう思うだろ?」

「勿論です。って、ああっ!」

「あははははははっ! いい声で喘ぐじゃないか! 強気な女が、あの橘陽葵が……まるで奴隷のようだな!」


 嫌なはずなのに、嫌になれない。

 股を擦られれば、勝手に声が漏れて、凄まじい快感が身をよじらせる。


 私、本当に幸村慎二の奴隷になっちゃったのね。

 ……最悪だけど、気持ちいい。


 遥君。お願い。

 もし空から私のことを見守ってくれていたとしても、今の私の姿だけは、最低な私だけは見ないで。

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