第11話(他キャラ視点エピソード) 訃報

『続いてはこちらのニュース。探索者協会から訃報のお知らせです。今朝ダンジョン1階層にてランク3、史上初のレベル100到達者でも有名な並木遥氏が亡くなりました。確認したのは同じ探索者の有望株、幸村慎二氏で、彼が発見した時には並木氏は既に死亡しており、その遺体はモンスターによって原型を成してしいなかったそうです。遺体を持ち帰ることは困難と判断した幸村氏は、遺品として並木氏のポーチを――』

「死、んだ。あの子が……。だから、だから探索者には向いていないと言っていたのに……」


 昼下がり。

 今日もオロチにやられた区画の復興作業に出向こうとしていると、私の目に最悪のニュースが飛び込んできた。


 ここ、地上とダンジョンの間に築かれた街、ダンジョン街で生まれ育って、人が死ぬことになんて慣れていたはずなのに……。


「歳をとったせいかしら。こんなに涙が抑えられないなんて……」


 あの子にせがまれて剣を教えることになったのが10年前。

 早熟傾向だと気付いて、探索者を辞めるよう諭し始めたのが5年前。


 そして探索者としてではなく、街の支援者としてあの子の目標になって上げようと、ほとんどダンジョンに出向かなくなったのが今年から。でもそれはあまりにも遅すぎた。


 そもそも戦うことがここに生まれた者の務めだと思い 込み、戦いに明け暮れるだけだった私が、他の生き方を提示できるような人間じゃなかった私が、人に何かを教える立場になろうとしたのが間違いだった。


「復興支援、か。被災者の人たちには悪いけど、それをする理由はもうない。やっぱり私は戦うしか――」


 虚無感に襲われながら、今後の自分の生き方について考えようとしていると、家のインターホンが鳴らされた。


 探索者はあくまでフリーランス。

 月毎に少量でもダンジョンで資源を集め、買い取りを行っていれば探索者協会からとやかく言われることはない。

 だから訪問者は探索者協会じゃない。

 新聞やネット回線の勧誘、訪問販売……そんな業者が訪れることは、ダンジョン街ではないはずなんだけど……。


「一体誰かしら……」


『――あ、どうもお久し振りです。俺です俺、慎二です』

「あなた……。自分をフッた女の家なんかによく来ようと思ったわね」


 インターホンのモニターに映っていたのはあの子……遥君の幼馴染みで、私の彼氏だった男、幸村慎二。

 遥君よりも少し歳上で、あの時は遥君の兄貴分で真面目な人だと思って接していた。

 だけど付き合ってからは、だらけた姿ばかりが目立って、つい遥君を引き合いに出してつついてみれば激昂。

 私に対して手を上げようとさえしてきた。


 私もそろそろ身を固めないといけない年齢。そんな思いと照れから、遥君に内緒って条件で付き合ってみたけど……。

 結果流石にこんなのと一緒にいれないと思って……あれからは1度も顔を合わせていなかった、のに。


『いやぁ、俺も来ることになるとは思いませんでした。でも、あいつ早くに両親亡くしてて……。だからこれはあなたに渡さないとって……』

「……私でいいの?」

『俺は幼馴染みってだけで……。あなたほど仲が良かったわけじゃないので』

「そう。分かった。今開けるから待ってて」


 私は椅子にかけていたカーディガンを羽織って、軽く顔を拭いながら幸村のもとへ向かった。


「あっ! どうもどうも! あれ? 何か目が赤くありませんか?」

「昨日なかなか寝れなくて、ちょっと充血してるだけよ。そんな話はいいから、とっとと用を済ませましょう」

「そうですね。それでは『本当』の用を済ませましょう。ランク10の探索者、橘陽葵を……『魅了チャーム』」

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