第10話 退路はない

『――ステータス』


「……。獲得経験値はそれなりっぽいな」



レベル:2400/9999

死亡回数:1

攻撃力:8100

魔法攻撃力:7943

防御力:8510

魔法防御力:8560

ユニークスキル:『測定計測』改め『神測』

スキル:身体強化、超身体強化、貫通看破、脳内地図、弱点属性察知

魔法:火水風雷闇光の6属性による初級魔法、中級魔法、上級魔法、最上級魔法

病気:なし



 今の戦闘で200のレベルアップ。

 あまりに本体と強さの差があるから、ほとんど期待はしていなかったが、レベルを補完するための経験値ブーストが恐ろしく機能してくれているようだ。


 それにしてもこのステータス……。いつの間にか最上級魔法まで扱えるようになっているし、探索者の必須スキルを2つも。

 地図を自作しながらダンジョンを探索している探索者なんて、『脳内地図』を使えない俺くらいのものだったから、それだけで慎二に馬鹿にされていたっけ。


 何はともあれ、『オロチ本体』の大体の位置を『神測』で特定、あとはこの階層を脳内地図でざっくり把握して……。おそらくは今の尻尾同様、縄張りを巡回している奴らがいるだろうから、経験値要因として殺しに……。


「いや、その前に剥ぎ取り、か」


 あくまで俺は探索者。

 モンスターを殺して喜ぶだけの殺戮狂ではない。

 地上に戻れたときのことも考え、明らかにレアなモンスターの素材は欲しい。

 できればこの素材で新しい剣と、今月の家賃くらいは頂きたいところだが、それは流石に贅沢過ぎ――


「な!? ……。なるほど、こうして元の1つだった存在に戻ろうとしているのか。肉体は完全に死んでいるが……。概念、その意思を形成する何かは『本体』を殺さない限り死なないのだろう」


 剥ぎ取りを行うため、剣を死体に向ける。

 すると尻尾と呼ばれるその竜の身体はどろりと溶け、代わりに青白い気体を発生させ、川のその先に向かって漂い始めた。


 残念ながら剥ぎ取りは行えなかったが、階層を下るための正確なルートはこれで判明しそうだ。


 『脳内地図』というスキルは自分が侵入したことのない場所や道の詳細な情報を得ることはできない。未探索の階層だと、全体の地形を平面的に理解、さらにその平面で描かれた階層内をモンスターたちは赤い点で表せられる程度だ。

 例えるならローグライクゲームの探索前の地図状態、だろうか。


「あれについていって脳内地図に確立したルートを描く……前に」


『神測。現地点からモンスター、オロチ本体までの距離を計測。……オロチ本体までの距離、残り10階層。時間にして徒歩2日。縄張りの範囲計測……現地点20階層から30階層まで』


「残り10階層で現地点20階層。確か人類の最高到達階層は12階層で、溶岩地帯だったはずだが……。俺、そんなに深いところに落とされていたのか。……。待てよ。ということは、危険なのはモンスターだけじゃなく――」


 唐突にキィンと音が響いた。


 これは空気中に漂う魔素を取り込むことで発せられる魔奏草の音。

 一定時間奏でられるその音は、モンスターにダメージを負わせ、空気を伝ってそのモンスターに自分の種となる魔力を植え付ける。

 そうして魔奏草はモンスターから養分を吸い取り繁殖する危険な植物。

 他にも、大量の魔力を内蔵している代わりに、闇属性の魔法に敏感で、大きく破裂する魔貯爆岩や、催眠草まで……。


 深い階層は魔素が濃くなることで、至る所で様々な異変を起こす。


 俺たちはレベルとは別に探索者協会が探索者を把握、ランク付けをするのだが、それがなぜ必要なのかというと……それは、ダンジョンに対して知識も経験もない探索者が自分のステータスを過信して不用意に身の丈に合わない階層に踏み入れないため、だったりする。

 そう。つまりは1階層でばかり狩りを行ってきた俺にとってここは、進むだけで脅威となる階層ということ。しかも、事前準備がない。


 オロチとの戦闘まで最大2日の探索……。


「これは流石に縄張りを出て地上を目指さないとまずいか? だが、縄張りの効果が俺の知っているものだけではない可能性もある。そんな状態でそれから出ようとするのは――」


『神測。オロチの縄張り、魔法効果の測定。……。範囲S、威力A、妨害阻害効果S。現状突破不可。19階層への移動不可』


「そもそも、上には戻れないようになっている、と」


 レベルアップに焦るオロチ本体と、そもそもこの深層に長く滞在することで不利となる俺。

 ……。となれば、移動を急ぎつつとにかくモンスターを殺して殺して殺して殺して……。剥ぎ取りは無視。

 竜たち以外の奴らには戦術もへったくれもなく、慎重という言葉が似合わない方法でとにかく……。


「殺す」


 ふよふよと進む気体を追い越して、俺は目先に映ったケルベロス成体3匹のもとへ突っ込み、そして、剣を放って心臓を穿って1匹目。顎を蹴り飛ばし、地面に張り倒したあと、顔面にふっとスタンプを食らわせて2匹目。前足を折り、そのまま魔奏草の正面まで投げ飛ばして……。


「3匹目」


 ケルベロス成体に生い茂り始める魔奏草に一瞬だけ目を移すが、すぐに振り返り気体と俺の行き先を邪魔するモンスターを探す。


「早くレベルアップとオロチの討伐をするためには、こうするのが最善だな。ああ、ほかの竜たちも早く殺したい。殺させて欲しいな」

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