第9話 弱すぎる
『――レベルアップにより複数のスキルを取得。既存スキルの強化……完了。情報の量を加味し、直接知識として伝達……完了』
「ぐ、あぁ……。貴、様……」
「かなり力を込めたはずだが……。レベル差があるとはいえ、頑丈だな」
発動した『神測』によって魔法陣から指を出すモンスターの対応適正レベルが測られると、それと同時に経験値獲得の方法が変更されることも伝達された。
それを聞いた瞬間、俺は指を出すモンスター、『オロチ本体』がこの場から姿を消す前に経験値を獲得しにかかったのだ。
ただ、ここまで一気にレベルが上がるなんて思いもしなかったが。
おそらく普通に戦っていれば、『オロチ本体』に触れることすらかなりの難易度だったのだろう。
レベル2200。『オロチ本体』の指の骨を圧し折ることは難しそうだったが、ダメージは確実に与えられる。俺は戦える。
「お前をそこから出すのは未だ不可能。お前から出てくるのも不可能。であれば、まずはお前の尻尾? の首と……経験値をもらおうか」
「おい! さっさとこいつを拘束しなさい! 少しでもレベルアップをさせないように、出し惜しみなしの全力で仕事にかかるのよ! 面倒だけど、私自らそっちに向かうから――」
魔法の発動時間が限界に達したのか、『オロチ本体』の指が消えると同時に魔法陣は割れ、姿を消した。
『私自らそっちに向かう』。
それにどのくらいの時間が掛かるのかは分からない。
ただ、その時間、レベルアップをさせてもらえる猶予はもらえた。
であれば俺も全力で暴れるまでだ。
「が、ぁぁああぁ……」
「『オロチ本体』の意識が移動に向けられた、ってところか? さっきよりもモンスターらしくなったじゃないか」
『オロチ本体』に尻尾と呼ばれていた竜は、身体を丸くして低く呻く。
さっき話をしていた内容から、こいつと同じようなのがまだ何匹もいるとはず。
ということはこの呻き声は仲間、同じ尻尾と呼ばれる個体を呼び寄せるためのものである可能性が高い。
オロチは、日本では八つの首を持つ竜を指すことが多い。
これは推測でしかないが、本来その首ごとにちゃんとした役割があって一体のモンスターとして行動するところ、そのうちの1つが大きく主張、各首に勝手に役割を与えて、使役する形になってしまっているため、こいつ、こいつらは反乱の可能性も考慮されたうえで、尻尾なんていう適当な役割しか与えられなかった。
しかも、それが自我を薄れさせて普通のモンスターに近い雰囲気を醸し出すようになったのではないだろうか。
そう考えると少しだけ可哀想に見えなくもない、が……。
「本体を除けば、『オロチ』はお前を含めて残り7体。1対7の図式を作られる前にまずはお前を殺す。……『超身体強化』」
強化された『身体強化』、『超身体強化』は、アルコールを摂取した時と同程度で思考能力が低下、さらには細かな作業ができなくなるほどの器用さへと変貌してしまう代わりに、筋力、動体視力、走ったり、泳いだりといった運動能力を向上著しく向上させるスキル。
これだけ聞くと通常の『身体強化』よりも使い勝手が悪く思えるが……。
「――が、ああっ!!!」
「速さは目で追うのがやっと。なんてことの無い箇所を軽く蹴飛ばされただけでその悲鳴、吐血、か」
恐ろしく膨れ上がり、血管の浮き出過ぎる筋肉を纏った俺の脚は、地面に薄っすらと焦げ跡を残すほどのスピードを生み、音を置き去りにするほどの蹴りを実現させていた。
腕も同様に人間離れし過ぎた動きを実現。
振り下ろした剣撃は、最早閃光にさえ見え……。
「まずは1匹。俺が強くなったというのもあるが……いくら何でも本体と実力差がありすぎないか?」
尻尾と呼ばれていた竜の頭は豆腐のように割け、血を噴き出しながらその身を地面に落とした。
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