第6話 500レベルの強さ
「くっ……。熱くて、厚いな」
ダメージを受けたケルベロスとの間合いを詰めるのは容易だったが、その毛皮は思いの外分厚さがあり、思うように刃が入っていかない。
しかも傷つけた箇所からは熱気が漏れ、熱さから逃れるために立ち位置をこまめに変える必要もある。
遠距離攻撃に特化しているだけで、モンスターの身体的能力からなる近接戦闘は幼体と左程変わらないと思っていたが、そんな考えは甘すぎたようだ。
「とはいえ……そんな攻撃食らうようなレベルに俺はもういないぞ」
ケルベロスは自分の身体の周りを駆け回る俺に対して、その強靭な爪や牙を振る。
だが、ステータスの向上により、それらを受け流すのは容易。そもそもこの程度の威力であれば、受け止めることもできるかもしれない。
攻撃を避け、ときには受け流し、隙を突いて攻撃に転じる。
戦闘の基本である立ち回りがケルベロス相手にも通用していることが、俺の気持ちを高ぶらせてくれる。
一撃一撃入れる度、自然と脚が軽くなる俺に対し、動きが鈍くなるケルベロス。
どちらが勝利に近いのかは明白。
あとはその命を絶つための決定打が欲しいところだが……。
業火を吐こうとする仕草を見せる左右の顔が邪魔だな。あれを防ごうとするせいで、時折攻撃を顔面狙いに切り替えているのだが、どうしてもそれが隙となり危険を呼び込む。その上、急所である心臓を守る立ち回りをする猶予をケルベロスに与えてしまっている。
「――じれったい。じれったいが……この時間が俺を強くする」
『神測。ケルベロス生体の残り生命力、中。対応適正レベルまでに必要な経験値を取得。レベルを補完。500レベル到達、反映。使用可能魔法の等級引き上げまで残り10秒』
そんな攻防を開始してから既に数分が経過。
ついに俺のステータスはレベル500のものに反映され、ケルベロスの毛皮はなまくらでも無理やり押し込むことで、一撃で完全に断ち切れるようになった。
簡単に深く傷をつけることができるようになったため、辺りはケルベロスの血で汚れ始めた。
「く、ぅん」
「だから、お前たちは我慢が効かなすぎる」
ダメージを受けすぎたからか、ケルベロスはついに背を向けた。
痛みに耐えきれず、逃亡を図ったのだ。
だが、それこそ最大の隙。
俺は立ち幅跳びの要領で勢いをつけて飛び上がり、ケルベロスの大きな背に乗ると、なまくらを両手で握り締めてその背に剣を突き刺した。
「が、ぁあぁぁぁああっぁ……」
「深く刺さったが、まだ動けるのか。大した生命力だよ。だったら……『
俺はぐりぐりと背の傷を広げて、そこに向け使用可能になったばかりの上級魔法を発動。
毛皮という鎧を失った上、この超至近距離であの威力の攻撃を受ければ流石にたおれてくれ――
「がぁぁぁぁぁ……。あっがっ!!」
魔法陣が展開され再びそこから竜のような口が姿を覗かせた、だけでなく頭までもが完全に姿を現し、まるで意思を持っているかのように、その頭は傷口に噛み付くと一気に水を流し込み始めた。
その豪快さに思わず口がだらしなく開き、それと同時に俺の頭の中でこの竜に似たモンスターが連想される。
「でもあれは頭の数も顔も違う、か。……。それにしても。はは。ここだけ切り取ると、もはやモンスター同士の戦いにしか見えないな」
流し込まれた水によってケルベロスの身体は水風船のように膨れ上がり、あっという間に破裂。
あれだけの熱気を放っていたとは信じられないほど、ケルベロスの身体の破片は冷たくなって地面や俺の身体へと降って落ちる。
その冷たさは火傷した箇所に染み入るようだ。
「勝った、か」
充実感が全身を包み、俺は地面へ横たわった。
いくらレベルが上がったとはいえ、流石に疲れ――
『地上に向かわせるまで、もうちょっとだけ眠っていようと思っていたのだけれど……。まさか私の縄張りで、私のワンちゃんを、私の力を用いて殺す人間がいるだなんてね……。まったくもう、完全に目が覚めちゃったじゃない』
脳内に語りかけてくる女性の声。
その声にハッとし、体を起こす。
すると、そこには展開された魔法陣から顔を見せた竜が、今度は川から顔を覗かせていたのだった。
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