第4話 レベル補完

『取得スキル、看破。対象のモンスターの真名を知ることができるスキル。初回自動発動』

「どんなスキルを取得したかと思えば……そうか、やっとスタートラインに立ったって扱いなのか、俺」


 強力な攻撃スキルが手に入るかもしれないと思い、内心胸を高鳴らせていたが、実際に手に入ったのは、初めてモンスターを倒した時に取得できるとされているスキル。

 俺はレベル上限が解放されたことで、ようやく普通の探索者と同じスキル取得の道を辿れるらしい。


「今更こんなスキル、拍子抜けもいいところ――」

『真名:ケルベロス幼体』


 ようやく他の探索者と並んで歩めるという安堵感と、レベル上限が解放されて、いわゆるチートキャラになれるというシンデレラストーリーから外れてしまったというがっかり感を味わっていると、俺の耳に思いもよらぬ真名が飛び込んできた。


 幼体。

 つまりは、今倒したこのケルベロスは赤ん坊に過ぎなかったということ。

 思えば神話に出てくるケルベロスというのは3つ首の生き物だったような……。


「だとしたら、ここに長居するのはまずい」


 俺は最悪の事態を恐れて、今いる場所がどことも分からずに走った。


 この階層がもし本当に5階層だというなら、次の階層はモンスターの出現がないオアシス、セーフティエリアになっているはず。

 正直俺1人では、今みたいなモンスター、いや、今みたいなモンスターよりも強いモンスターに囲まれた場合対処が難しい。

 生き残るためには、一旦他の探索者と合流して、安全に地上に向かうしか――


「おっ! 水がっ――。うっ……。この熱気……」


 ようやくひらけた場所に出ることができただけでなく、川を見つけ喜んでいたのも束の間、川が続いている奥の方から異様な熱気が流れてきた。



 いる。この先に、生体が。



 さっきまでと比べて、今の場所はひらけているし、なにより火を扱うケルベロスと対峙するのに水辺はうってつけかもしれない。


「結局水の流れからしてあっちが川下。下のセーフティエリアを目指すならここを進むのがベスト。……やるか」


『神測』


 意を決して戦うことを決めると、俺は心の内でスキル名を呟き、ケルベロスと自分との距離を測った。

 その距離約120メートル。

 

 剣の間合いにケルベロスが入ってくれるまでまだしばらくかかるとして、一度岩陰に隠れて不意を突――


「なっ!?」


 ケルベロスとの距離は120メートル。だがケルベロスは俺に気づき、その上で攻撃を仕掛けてきた。

 黒く、辺りを溶かす炎。それはまさに業火と呼ばれるに相応しい。

 これと比べればさっきの幼体が放った火なんていうのは、ライター、いや、マッチ棒の火以下。


 俺は咄嗟に川に飛び込み、業火を回避。

 近くに川があって本当に良かっ――


「が、るぁああああああああっ!!」

「ぐ、ぁぁあぁぁぁあぁ!!」


 川に逃げ込めたと思っていたが、俺はまんまと川に誘導されていたらしい。

 的確に俺の位置を把握することができたケルベロスは、その大きく鋭い爪で、川の中の俺の身体をひっかき上げたのだ。

 まるで熊が鮭を狩るような図式。


 空中に放り上げられ、このままではケルベロスの腹の中。

 逃げる術はない。


『――神測。敵の総合能力B。対応適正レベル500。目標レベル補完のため、500レベルまで取得経験値をブースト。また、経験値取得を討伐取得から、戦闘取得に自動変更済み。現在経過した戦闘時間10秒で可能なレベルアップ……100を反映。以降も経過戦闘時間、被ダメージ、与ダメージ等から経験値を算出。補完レベルアップを継続』


 この絶体絶命の状況で発動された『神測』。


 その内容は明らかに今までの常識から外れたもので、こんな状況だというのに、俺は高揚感が要因である口角が上がる、という現象を抑えきれなかった。

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