第3話 強さの実感
「逃げ場、はないか。……『身体強化』」
ケルベロスがのっそりと歩いてくる間に、俺は自己強化バフをかけた。
筋肉が通常よりも盛り上がり、力が滾る。
この状態で放つ剣撃が俺の最高火力。間合いに入ったら一気に剣を抜いて、あの首を落とす。
「が……あっ!!」
「っ! だが、そんな脅しには乗ってやれんな」
腰に差した剣に手をかけて、相手の出方を窺っていると、ケルベロスの片方の頭が火を噴いた。
瞬時に俺を焼き殺せれば良し、それが出来ないとしても、攻撃態勢を慌てて火の中から出ようとする、という隙を狙おうという魂胆だろう。
そしてそれが分かっているからこそ、俺はこの火を避けないと決めた。
俺がなぜ100レベルまで、レベルをあげられたのか……経験値効率が良かったから、根気、努力、勇気、いろいろなものが挙げられるが、それ以上に俺は誰よりもモンスターを観察してきたから。
格上のモンスターに勝つためには、何よりこれが重要。
知性、理性、習慣、癖など。
モンスターと言えど、これらは間違いなく持ち合わせていて、弱点となる。
その中でも、今まで出会ったモンスターに全てに共通しているのが、理性の欠け。
具体的に言うと……我慢強さの程度が低いということ。
つまり、はだ。こうやって避けずに待っていれば、普通なら躱されておかしくない俺の剣撃であっても、我慢できず不用意に突っ込んできたケルベロスに刺さる可能性があるのだ。
幸い、レベルアップによって魔法防御力が上がり、熱いが、すぐに皮膚が焼けきれることはない。それに身体強化で体が温まった状態なら、外からの熱さに対する感覚が鈍る。
俺はあと数分我慢できる。が、ケルベロスは一体あと『何秒』我慢できるのだろうな。
「ぐ、あああああああああああああああっ!!」
「……20秒くらいか。モンスターにしては我慢強い。流石はケルベロスといったところだが……その首もらった」
飛び込んで浮ついたケルベロスの懐に潜り込むのは簡単。
態勢を低くし、すり足に近い動き方で確実に、そして思い切り剣を振れるポジションを取ると、俺は勢いよく剣を抜いた。
剣は装備屋のジャンクコーナーに売っていた安物を自分で研いだ、いわばなまくら。
だが、そんななまくらでも面白いくらいケルベロスの毛皮は切り裂け、想定よりも深いところまで刃が入っていく。
今までは防御力が人並み以下のコボルトですら、その首を落とすのに時間をかけていたって言うのに。
ステータスが大幅に強化されると、ここまで変わるものなのか。
「う、が……」
「この首、まだ生きてるのか……凄まじい生命力だ。なら、苦しまないように止めを刺してや――」
1つ首を落としたことで、胴体は地面に落ちた。
もうすぐ死ぬはずだが、声にならない声を発し、地面で苦しそうな表情を見せるケルベロスの首に俺は情けを掛けようと近づいた。
すると……。
「うがあああああっ!!」
「そう。モンスターっていうのは食や生に貪欲。そしてそれ故に狡猾なんだ」
倒れていたもう1つ頭の残っている胴体が、いつの間にか立ち上がり、俺を食いちぎろうとする。
不意打ちだったら間違いなく食われていた、が、俺がそれに気づかないわけがない。
向かってくるそれに対して、俺は剣を真っ直ぐ、地面と平行になるように差し向けた。
勢いづいていたそれは、もう止まることができず、自ら剣で串刺しに。
爪が少し脇腹を掠めたが、魔法防御力同様物理防御も強化されていて、ダメージは僅か。
強さに隙がないことを実感する。これが、これが……俺の新しいステータス。
100から102と、そこまでレベルに変化はないが、上昇幅がやたらと大きい俺のステータス。
「これ、最大まで達したらどうな――」
『新たにスキルを取得しました』
もう何年振りになるのか分からない、スキル取得の脳内アナウンス。
どうやら強化されていくのは能力値だけではないらしい。
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