第3話 無言の眼科医
U先生は地元の駅前に眼科を開業していた。先生は一人だけの地元のクリニックだ。強度の近視である私は、学校の視力検査で引っかかって要検査になったり、メガネの処方箋を書いてもらうときはそこに行っていた。
田舎で競合相手が少ないのか、クリニックはいつも混雑していて、土曜日は開院待ちの行列が出来るほどだった。平気で一時間以上待つこともあり、私はチラチラ受付の美人を横目に見ながら待合室で本を読むことにしていた
U先生は腕は良いという噂だったが患者に厳しかった。声が大きく、怒っている声が待合室に漏れ聞こえてきたこともあった。
ところが、ある日病院に行って診察室に入るとU先生は喉を痛めたのか声が出なくなっていた。掠れ声で先生が話した内容を後ろのアシスタントの女性が毎回言い直している。いつも怒っているバチが当たったのかもしれない、と内心思っていた。
それから半年後。メガネを新調するために処方箋を取りに行った。驚いたことに先生は一切喋らなくなっていた。きっと、無理して話し続けていたのでさらに症状が悪化してしまったのだ。診察結果は、筆談で教えてもらった。
その一年後に再度訪れた時には、先生は元通りに復活し、以前のように大声で患者を怒鳴りつけていた。良かったのか悪かったのか。それでもなぜか、自分はホッとしたのだった。
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