第21話 女子会が開催されました
さて。
言質を取ったまではいいのだけれど。
そうなると、やっぱりシルヴィスさまのお好み、というものを知ったほうがいいように思う。
約束は、『好意を寄せ合うようになった暁には』ということだから、私はともかく、シルヴィスさまに好意を持ってもらわないと。
たぶん彼は、自分からは嫌だと言わないとは思う。
けれど好かれるに越したことはないし、嫌われながら結婚するのはやっぱりつらそうだし。
なにより私は、シルヴィスさまと恋をしたいの。片想いがしたいわけじゃないんだもの。
いや片想いも片想いで、物語として読むには素敵だけれど。自分でするのはちょっと悲しい。
とにかく気を抜いてはいられない。
というわけで、情報を集めよう。
けれど、婚姻の儀に向けて、式次第やら衣装やらの打ち合わせだとか、改宗に向けての準備やらでバタバタと動き回ってはいるので、時間が有り余っているわけではない。
極力、シルヴィスさまと顔も合わせておきたいけれど、あちらはあちらで忙しそうなので、たまにご一緒する夕食か、時間が空いた夜に後宮に来ていただくくらいしかない。
愛を育む時間が圧倒的に足りない。
なにせ、入国から婚姻の儀まで、わずか三月だ。
となると、協力者が必要だ。
私は後宮の客間でお茶など飲んで一息ついていたのだけれど、そう思い至ると、控えていた侍女たちに振り返る。
フローラは目が合うとにっこりと微笑み、ローザは苦虫を噛み潰したような表情になった。
ローザはなにやら嫌な予感がしたのかもしれない。
なんにしろ、ローザは色気の出し方は答えられなかったし。この件に関しては戦力外と見たほうがいい。
となると選択肢は、できる女、フローラだ。
「ねえ、ちょっと訊きたいのだけれど」
「なんでございましょう」
フローラはかしこまってこちらの言葉を待っている。
「陛下って、どんな女性がお好みなのかしら」
「……はい?」
「大人っぽい人がいいとか、可愛い人がいいとか、いろいろあるじゃない? そういうの」
「あ……ええと……」
戸惑うように視線を泳がせている。こんな質問が飛んでくるとは思っていなかったようだ。
もしかしたら、愛妾がいるのでは? と疑っているように聞こえたのかもしれない。
「だって、そういうのがわからないと、傾向と対策がわからないじゃない? ドレスひとつを選ぶにしても」
「あ、ああ。なるほど」
つぶやくように、フローラが零す。
質問の意図はわかったのか、うなずいた。
けれど質問の答えは思いつかなかったようだった。
「陛下は、エレノア殿下の選ばれるものなら、どんなものでもお気に召されると思いますよ」
にっこりと笑ってそう返事する。
そうじゃない。そうじゃないのよね……。
「やっぱりわたくし、陛下から見ると、子どもっぽいのではないかと思うの」
「そう……でしょうか」
フローラは、そうでしょうね、とは返せなかったのだろう。ローザなら迷わず賛同するだろうけれど。
「というわけで、色気とかあるといいと思うのだけれど。どうしたらいいと思う?」
「色気……ですか」
私とフローラの会話に、他の侍女たちも顔を見合わせ始めた。
ここに女性がこれだけ……ローザと私を含めて七人いるのだから、色気の出し方、知っている人もいるんじゃない? 意見があったら言ってもいいのよ?
特に、できる女、フローラは。
しかしフローラは、困ったように眉尻を下げた。
「申し訳ありません、私にはそういう高等技術はちょっと」
「高等技術」
フローラまでそんなことを言い出した。
そんなに難しいのか、色気って。
これはどうしたものかと思っていると、ローザがふと「あ」と声を出した。
「どうかした? ローザ」
「そういえば私の友人に、いろんな男性から、色気があるって言われている子がいました」
なんと。
ローザの友人にそんな貴重な人材が。
「オルラーフの人よね?」
「そうです」
「じゃあ、呼びつけるわけにもいかないわね」
「そうですね」
「でもその話、聞きたいわ」
「じゃあ」
ローザはこほん、と咳払いをすると、話し始めた。
「友だちにシンディって子がいたんですけれど」
「シンディ? 聞いたことあるわね」
「今はドレーク伯爵夫人です」
「ああ!」
舞踏会で会ったことがある。
なんだかおっとりした人で、美人というよりは、可愛らしい、という雰囲気の夫人だ。
ふわふわの金髪で、色が白くて、華奢で。守ってあげたいと思えるような人。
私の思う、色気、とはちょっと違う気がするんだけれど。
女性から見る色気と、男性から見る色気って、違うのかもしれないわ。
ドレーク伯爵は妻にぞっこんという感じだったし、と思い出す。
「彼女、それはそれはもてましてね」
「そうでしょうね」
「彼女が言うには」
それは参考になるのかしら。
あんなに可愛らしい人は、天真爛漫で、素のままの彼女を好きになってもらえる人なんじゃないかしら。
などと思いながら耳を傾けていると。
「恋愛は計算だと」
「えええええ」
「あんたは押してばかりだから駄目なのよ、って言われたことがあります」
「それは想像がつかないわ……」
あんな可愛らしい人が、計算?
いや、計算って、なにを計算するの?
恋愛における計算って、なに?
「彼女、とにかく男には贈り物を貰いたいんだそうです」
いくら色気があろうとも、ローザの友人ということだから同類なのかもしれない。
権力と財力は大事ですよ、とかいう。
「お金を掛けさせれば掛けさせるほど、男は離れていかないんだそうです」
「そ……そうなんだ」
「はい」
貰って儲けたい、とかいうのではなく。
お金を掛けさせると、離れていかない。
男性側は、もったいない、って思ってしまうのかな。
それが計算ってこと?
……ちょっと上級すぎやしませんか。
「それ本当に、あの伯爵夫人の話なの?」
「そうですよ。何人もいる中で、ドレーク伯爵が一番将来有望そうだからって選んだんです」
ローザはきっぱりとそう言い切った。
「あ、あの……」
そこで、フローラがおずおずと手をあげた。
「はい、フローラ。どうぞ」
私がフローラを指を揃えた手のひらで指すと。
「その話、私も加わっていいでしょうか?」
「え? ええ、いいわよ」
フローラは嬉しそうに、少し笑った。
それを見て、他の侍女たちも手をあげる。
「あ、わ、私もよければ」
「私も」
気が付いたら客間は、一つのテーブルを七人で囲んで、お茶会会場となっていた。
うーん、なんだろう、これ。
女子による女子のための女子の会。
名付けると。
女子会?
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