第12話 【side】アンガス、アリシアの志の高さに衝撃を受ける。

【side】アンガス、アリシアの志の高さに衝撃を受ける。


 ワイバーンを瞬殺したアリシアは、帰りたすぎてソワソワし始めた。


(はやくかえろッ! もう疲れた!)


 アリシアは舎弟のアンガスに、討伐の証明になる魔石を取り出すように指示した。さすがBランク冒険者なだけあって、手際よく処理するアンガス。


「姉貴、どうぞ!」


 アンガスは敵将の“首”である魔石をアリシアに手渡す。彼女はさほど興味もなさそうに、それをリュックにしまう。


「ありがと。じゃ、さっさと帰ろっか」


 と、アリシアから放たれたその言葉は、周囲にとっては予想外のものだった。


「えッ?」


 その場にいた全員がアリシアの方を見る。


「素材の採集はしないのですか?」


 パーティメンバの一人が訊ねる。


 それも当然の反応で、ワイバーンからは様々な有用なアイテムが取れる。

 皮、鱗、牙等は魔力を溜め込んでおり魔装具の材料にうってつけなので、かなり高額で売ることができる。


 冒険者にとって、素材の回収も重要な収入源のひとつだ。

 それゆえ何も取らずに“帰る”という選択肢は冒険者にはない――はずだった。


 けれど、アリシアにとっては違う。


(わたしは一刻も早く帰りたい!!)


 今のアリシアの頭の中にあるのは、宿のふかふかのベッドだけであった。今の彼女に、それ以外のものは見えていない。

 それゆえ、モンスターの死体を“漁る”という選択肢は、よほどのことがないかぎり次の行動の対象にはならなかった。


「え、それってやらないとダメなんですか?」


「えっと、ダメではないけど……ただ、結構お金になるから基本的にはやるものだと思うが……」


 アンガスの答えを聞いて、アリシアの意向は固まった。


(お金はクエストの成功報酬で十分だし、やっぱりわたしは帰ろ)


「わたしは(ダラダラするのに)忙しいです」


 それは、アリシアにとっては、それ以上でも以下でもない理由を述べただけだった。

 だが。


「……え?」


 アンガスは驚愕で目を見開く。


(そ、それはつまり……姉貴は他のモンスターを倒すのに忙しいってことか……!!)


 目の前の少女に全幅の信頼を置く彼は、そういう風に解釈した。


(なんて崇高なんだ……!! 姉貴は金のためではなく、世界の平和のために戦ってたのか……それに比べてオレは……小銭稼ぎに勤しもうとしてた……なんて矮小なんだ)


 アンガスは猛省してから、バッと振り返り、仲間たちに告げる。

 

「お前ら。素材はぜんぶくれてやる。オレは姉貴と先に帰る!」


「え、マジで?」

「いいの?」

「ありがてぇ!」


 と、パーティメンバーたちも笑みを浮かべる。

 ――不思議なことに、その瞬間だけ見ればwin-winの関係になっていた。



 †


「早かったですね、流石です」


 ギルドの受付嬢が、アリシアのことをそう言って称えた。

 アリシアにとっては“長い旅路”だったのだが、一般的には速い部類だった。ワイバーンだけでなく、道中に遭遇したモンスターも瞬殺していたので、攻略は極めてスムーズに進んだのだ。

 

「それでは、魔石の確認をしますので、しばらくお待ちください。」


 お姉さんにそういわれるや、アリシアは「ご飯食べてきます」とギルドの建物を後にした。

 その小さい背中が見えなくなったのを確認すると、アンガスは受付嬢に話しかけた。


「なぁ、聞いてくれよ!」


「どうしたんですか、アンガスさん」


「やっぱりアリシアの姉貴はすげぇんだ。オレたちとみたいな下賤な冒険者とは違う、高い志を持ってんだよ」


「といいますと?」


「素材の採取はモンスターを倒したもんの特権だろ? ましてワイバーンなんて、金の塊みてえなもんじゃねぇか。それなのに、アネキは採取を他の奴らに“譲って”、そのまま帰ってきたんだ」


「ええッ!? 一体どうして?」


「一刻も早く次のクエストを受けるために、帰ってきたんだよ」


「!?」


 受付嬢は絶句する。


「アリシアの姉貴は、超絶強い。だからアネキにしかできない討伐任務をこなすので忙しい・・・」ってことなんだ! オレは……志の高さに感動しちまったんだ」


 アンガスの言葉に、受付嬢はうんうんと頷く。

 

「さっそく次のクエストを準備しますね!! アリシアさんでないとできないような難しいクエストを!」














 

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