第7話 惰聖女さん、うっかり先輩冒険者にダルがらみされる。
アリシアは森でうっかりミノタウロスを倒して、“なんか高貴そうな人”を助けた。
その正体が王子様であるなどとは、アリシアはつゆほども思っていなかった。
だから、これ以上めんどくさいことに巻き込まれないようにとばかりに足早にその場を後にしたのだった。
(めんどうごとはごめんだもんね)
そうして急いで街に向かった結果、急いだかいもあって日が暮れるまでには街へとたどり着き、なんとか宿を見つけてその日は眠りについた。
そして一夜明け、朝日とともに――目覚めるつもりもなく、昼頃ようやく起き上がったアリシアは、しかし途方に暮れた。
「……これからどうしよ」
アリシアの持ち金はわずかで、このままいけば数日で底をついてしまう。
そうなったら、“元貴族の娘”から一転、浮浪者の仲間入りだ。
こんな状況ではできることは限られていた。
「こうなったら仕方がない。冒険者になるしかないか」
アリシアは実家で執事たちに囲まれてダラダラと生きてきた。だからお金を稼げるようなスキルは何一つ持っていなかった――――戦闘スキルを除いては。
何かの間違いで手にした“省力化(セイビング)”のおかげで、どうやらモンスターを倒すことができるらしいということは既に分かっていた。
いまやそのスキルだけがアリシアの特技と言っていい。他にめぼしい“スキル”は持ち合わせていないのだから、生きていくためには、これを使うしかない。
正直なところ、冒険者はアリシアが絶対になりたくない職業トップ3に入っていた。なぜなら、常に死と隣り合わせの危険な職業だからだ。ダラダラ行きたい“惰聖女さん”には、まったく向いていない。
(でも今は生きるために仕方がない……)
アリシアはそう決心して、ギルドへと向かった。
†
ギルドの扉を開くと、中からはどこかむさくるしい臭いが漂ってきた。
女性の、特に少女の来訪は珍しいのであろう。アリシアが中に入ると、冒険者たちの視線を一気に集めた。
「あの……すみません、冒険者登録をしたいのですが」
受付のお姉さんにそう告げるアリシア。
「はい、ではこちらの用紙に必要事項を記入してください」
アリシアは渡された紙にスルスルと必要事項を書いていき、1分ほどでお姉さんに返す。
「……なるほどアリシアさんですね……って、クラスは<聖女>ですか?!」
クラスの欄を見て、お姉さんは驚いていた。
「えっと、実はそうなんです」
そのやり取りを聞いて、あたりがザワザワし始める。
<聖女>は極めて珍しいクラスだ。その時代に一人いるかいないかというレベルで希少なので、周囲が驚くのも無理はない。
「聖女様が我がギルドに入ってくださるなんて……」
と、お姉さんは目を輝かせていう。
だが、ある一人の男が、脇からちゃちゃを入れてきた。
「おいおい、“聖女”で、“アリシア”って言ったら、外れスキルを授かった“堕聖女”じゃねぇか」
アリシアが“堕聖女”のクラスを授かったのはつい機能のことだというのに、既に噂が広まり始めていたようだ。それほど、「領主の娘が外れクラスを引いた」というのは衝撃的な事実だったのだ。
(よくご存じのこと……)
アリシアは内心で苦笑いをする。
ただ、言い返しても意味がないと分かっていたので無視を決め込むことにした。
だが、男の方はさらに絡んでくる。
「冒険者は大変な職業だぜ。外れクラスの無能には難しいんじゃないか?」
カウンターに肘をつき、横からアリシアのことを嘲笑する男。
男は角刈りで、頬には立てに入った傷跡がある。まだ若く、どことなくチンピラに見えるが、よく見ればそれなりに実践経験を積んで戦いなれていることが感じられる。
「お前、顔は可愛いからよ、Bランク冒険者のアンガス様が特別に手ほどきしてやろうか?」
男の名前はアンガスというらしい。
Bランクといえば、かなり上位の冒険者だ。普通、街には一人いるかいないというくらいには希少な存在である。
「いえ、結構です」
アリシアは、ダルがらみを少しでも早く終わらせるために、キッパリと拒絶した。
するとアンガスはムッとした表情を浮かべ、さらに一歩アリシアに近づこうとしたが、すぐに受付のお姉さんの手が伸びて、二人の間に入った。
「アンガスさん、止めてください。しつこいと免許を取り上げますよ?」
ギルドの職員にそう言われてはさすがのBランク冒険者も黙るしかない。
「まぁ、いずれにせよオレが<試験>でコテンパンにしてやるけどな」
(……試験?)
アリシアが内心で首をかしげると、お姉さんが説明してくれる。
「新しく冒険者になる人はランクを決めるために模擬戦形式の試験を受けていただくんですが、基本的に試験官はBランク以上の冒険者が務めることになっています。今この街にいるBランク冒険者はアンガスさんだけですので、試験官は自動的にアンガスさんになります」
冒険者の実力を実戦形式で測ろうとするなら、高ランクの人間が試験官を務めるのはごく自然なことだろうとアリシアも納得する。
「安心してください。試験はあくまで実力を図るためのものですから、危険なことにはなりません」
お姉さんに説明されるが、アリシアはあまりその心配はしていなかった。
どちらかというと、
(なんかめんどくさそう……)
という感情が勝ったのだった。
「それでは、早速試験を始めましょうか」
†
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