第3話 惰聖女さん、うっかりスキルを無限に連打できるようになってしまう。
(わ、わたし、ジャイアントオークを倒しちゃった?)
2体のジャイアントオークは、アリシアが放った業火に包まれ短い悲鳴を上げたのち、そのまま消し炭となって崩れ落ちた。
あっという間の出来事にアリシアは呆然とする。
手練れの冒険者でも苦戦するジャイアントオークを、たった一度の<ファイヤ―ボール>で屠(ほふ)った。
その衝撃的な展開を飲み込むのにゆうに3分はかかった。
だが、やがて状況を理解する。
「あれ、もしかしてわたしって……めちゃくちゃ強い?」
炎が収まった後に残ったジャイアントの骨を見て、アリシアはふとつぶやいた。
アリシアが追放される原因になった外れスキル<省力化(セイビング)>。
だが、そのスキルが突然覚醒し、アリシアの窮地を救った。
その力は、女神の声によれば“魔力消費量1で、かつ無詠唱でのスキル発動が可能になる”というもの。
それがとんでもないことだというのはアリシアにもわかった。
“詠唱”とは、スキルの発動までに必要な時間のことである。
通常多くのスキルは、発動までに数秒かそれ以上の時間が必要になる。
だが、アリシアはそれを省いてファイヤーボールを発動した。詠唱を省くことができたがゆえに、複数のファイヤーボールを同時に発動できたのだ。
(しかも、スキルを使った後のあの“疲れた感じ”がない……あんなにスキルを使ったのに)
スキルは通常、魔力を消費して発動する。アリシアは魔力量が少ないので、いつもであればファイヤーボールを数回使っただけででへとへとになっていた。
だが今は、軽く百近くのファイヤーボールを発動したにもかかわらず、まったく疲れがなかった。
「……<ステータス>」
アリシアはそう呟き自分のステータスを調べる。
すると、アリシアの魔力は、あれだけスキルを使ったにもかかわらずほぼ満タンのままだった。
“魔力消費量1”は本当だったのだ。
「これ、どんなに大きい技でも自由に打ち放題じゃない!?」
普段何事にもあまり興味を持たず惰性でダラダラ生きているアリシアも、この時ばかりは興奮した。
詠唱時間がないので、複数のスキルを同時に発動できる。
しかも魔力消費量がほとんどない。
これはとんでもなく有用なスキルだ。
例えば、初級スキル<ファイヤーボール>でも、100個同時に発動できれば、最上級スキルである<ドラゴンブレス>のような威力を発揮できる。
実際、アリシアは今しがたB級モンスターのジャイアントオークを、初級スキルの<ファイヤ―ボール>で倒してしまった。
「これならモンスター討伐もラクラクだぁぁぁ!!」
アリシアは自分の得た力の強大さに、思わず笑みがこぼした。
“ラクして生きたい”
<省力化>の力は、アリシアのそんな願望をかなえてくれる力に他ならない。
アリシアは、その強大な力をもう一度試したくなり、モンスターを求めて森の中を探索し始めた。
幸いと言っていいのか、少し歩くとすぐに獲物が見つかった。
発見したのはワーウルフ。ジャイアントオークと違って、どこにでもいるモンスターだ。
「くらえ! <アイスニードル>ぅぅ!!」
興奮のあまり言葉が汚くなるアリシア。
次の瞬間、空中に無数の“つらら”が出現し、ワーウルフに雨のように降り注いだ。
その様子は、まるで最上級スキル<アイスランス・レイン>を使ったようであった。
「――ッ!?」
声を上げる暇もなく、一瞬でワーウルフは粉々になって四散した。
「す、すごい!」
アリシアは極度のめんどくさがりゆえに、初級レベルのスキルしか覚えていない。
だがそれでも、100回同時に発動できるとなれば、最上級スキルに匹敵する技になる。しかもそれが魔力消費なしで使えるのだ。
アリシアは、自分が得た力が、“外れスキル”などではなく、正真正銘の“当たりスキル”だと確信した。
(これで、ラクラク人生間違いなし……)
内心そうつぶやいてニヤけるアリシア。
アリシアはワーウルフの死体から、“魔石”を回収する。
魔石はいろいろなモンスターから取れ、冒険者たちの収入源の一つになっている。
(適当にモンスターを狩って、魔石をサクサク手に入れて換金して……ラクラク稼いじゃおう)
こうなると、もはや追放されたことさえ喜ばしいことのように思えた。
父ルードは、娘がこんな強大な力を持っているとわかったら、騎士団に入れさせようとしたに違いない。そうなったら、アリシアは毎日戦いに駆り出されることになったであろう。それは彼女の望むことではなかった。
適当にモンスターを狩って、適当に遊びながら暮らす。
それがアリシアの理想とする“スローライフ”であった。
――――だが。
その理想は、早くも崩れ去ることになる。
「うぁああ!!!」
森の奥から、男の悲鳴が聞こえた。
「なに??」
アリシアは悲鳴がした方角をしばらく見つめた。
無意味に悲鳴を上げるのが趣味の人間ももしかしたらいるかもしれない。
だが、悲鳴の主がそんな奇特な趣味の持ち主である可能性は低い。
となると、なにかしらのトラブルが起きているのは間違いない。
「……関わりたくないな」
――それがアリシアの発想だった。
“誰かが困っているなら助けてあげよう!”などという正義感はみじんもない。
あるのは自身の保身だけである。
「スルーしたいけど」
だが、問題が一つあった。
実家を追い出されたアリシアは、今日中に街にたどり着かなければいけない。
そして、街へ行くには悲鳴がしたほうに進んでいく必要があるのだ。
「とりあえず行ってみるかな……」
アリシアはやれやれとばかりに呟いてから、歩き始めた。
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