第23話

「あ、起きた」

「夢を……見ていたんだ……」


 目を覚ますと、俺は馬車の中にいた。


「可愛い女の子に囲まれた俺は、チート能力を使って世界を牛耳る……そんな夢を見たんだ」

「よかったね」


 芽依は興味なさそうな返事をする。


 あれは本当に、夢だったのだろうか。


「もうすぐ着くからの。出る準備をしておれ」


 何故か唐突に嫌な予感がする。


 車……馬車……夢……


「なぁ師匠。この馬車って飛び降りて大丈夫か?」

「なんじゃ急に。一応今の主ならこの程度のスピード無傷じゃろうが、外には一応モンスターがいる可能性がーー」


 どうしてか分からない。


 さっきの夢の影響かもしれない。


 だが


「お、おい、何をしておる」

「ちょっとな」


 俺は馬車を飛び降りる。


 王都に近い為か、運良くモンスターの姿は見当たらない。


 だがとある生き物が俺の目の前に映る。


「なんで当たんだよ」


 足に力を込める。


 師匠から貰った指輪をつけることで、俺は軽く人間を超えた。


 例えばだが、本気を出せば少しだけ馬よりも速く走ることが出来たりする。


「荷物持ってる馬なんて余裕だな」


 蹴る。


 最高速度は野生動物もビックリの速度を保ち、俺は道を歩いている女の子を


「セーフ」

「え?」


 道の脇に女の子ごと移動する。


 先程女の子のいた道を通り過ぎた馬車から師匠が何か叫んでいるが、何言ってるか全然聞こえない。


 とりあえず俺は見覚えのある顔に挨拶する。


「……俺のこと覚えてる?」

「すみません、どなたでしょうか?」


 金色の髪。


 目にはグルグルと包帯を巻くという斬新なスタイル。


 この厨二心をくすぐるこの子の容姿は、夢で見た女の子と瓜二つであった。


「覚えてないならいいか。ところで、どうしてこんな場所にいるんだ?あのままだったら轢かれてたぞ?」

「え?私は街の中にいた筈ですが、ここはどこなのでしょうか?」


 まさかの迷子!!


「え〜、街ってことは王都だろ?」


 俺は遠くに見える風景を見る。


 ここから向こうまで何キロあるんだ?


「途中で気付かなかったのか?周りの音がしないとかで」

「普段は私が街を歩くと静かになりますので、今日は一本道が長いなとは思っていましたが」


 どうゆう状態だよそれ。


 俗に言う天然とかか?


 剣を持って踊っても意味なさそうだ。


「変わってるって言われないか?」

「言ってくれる友人がいませんので」

「君もボッチかいな」


 もしかして俺はボッチと出会う特殊能力持ちか?


 その能力悲し過ぎない?


「とりあえず向こうで師匠が待っててくれてるから、俺たちの馬車に乗ってけよ」

「えっと……もしかして私に行ってますか?」

「君以外誰がいるんだ」


 俺がそう言うと


「ああ、それが普通なんですね」


 小さく女の子は何かを呟く。


「それではご一緒させてもらいますね」



 ◇◆◇◆



「儂の馬は人がおったらちゃんと止まるようになっておる。それに儂の結界は人を避けるように出来ておるんじゃ。全く、勝手に飛び出しおって」

「知らないしそんなん。言わなかった師匠が悪い」

「な!!このバカ弟子!!ここらで一つお灸を据える必要がありそうじゃな!!」

「ハッ!!こんな狭い中じゃ師匠も魔法使えんだろ!!魔法のない師匠なんてただの幼女に過ぎないんだよ!!」

「ん何をぉおおおおおおおお」

「やんのかコラァアアアアア」

「あの、お二人とも落ち着いて下さい」


 何かがスッと目の前に現れる。


「……何これ?」

「マカロンです」


 何故マカロンを持っているのだろうか。


「今日のおやつにするつもりでした」

「主、目が見えないんじゃ」

「はい。ですが外に出る機会が少ないので、家で暇な時は料理をしていますね」

「師匠、見習った方がいいよ」

「儂も頑張れば出来る」


 とりあえず二人でありがたくいただくことにする。


「「美味!!」」

「ありがとうございます」


 甘ーい。


 今までの人生で食べたマカロンの中で五本の指には入る美味しさだ。


 俺人生でマカロン食ったの4回目だけど。


「芽依も食べてみろよ!!めっちゃ美味しいぞ!!」

「……じゃあありがたく」


 芽依は俺にこっちに来るように目配せする。


 俺はマカロンを一つ手に取り、芽依に渡す。


「えっと……芽依さんもこちらで食べたらどうですか?」

「いや……私は……」


 呪い持ちなんで無理でーすなんて言えるはずもなく、言い渋る芽依。


「もしかして私、何か傷付けるようなことをしたのでしょうか?」


 心配そうにする女の子。


「いや、あの子はちょっと人と距離を置かなきゃいけないんだ。別に君のことを嫌ってるわけじゃない」

「美味しい」

「ほら、今もめちゃくちゃ顔がトロトロに……顔見えねぇから分かんねぇや」

「なら……いいのですが」


 どこか申し訳なさそうに


「もし私が何か迷惑をかけた時は、遠慮なく言って下さいね」

「まぁ度が過ぎたら言うかもだけど」

「安心せい。ここの連中で細かいことにグチグチ言うのはこの男だけじゃからの」

「安心してくれ。ここでごちゃごちゃ言うのはこの声がロリロリしいお婆ちゃんだけだから」

「……」

「……」

「「死ね!!」」

「お、落ち着いて下さい!!」



 ◇◆◇◆



「へぇ、凛は色んな物作れるんだな」


 互いに自己紹介をした。


 この子の名前は釘宮凛という名前らしい。


 凛って名前カッコいいなぁ。


「家で私が読める本が料理の物が多くて」


 どうやらこの世界にも手で触れば文字が分かる本があるようだ。


 意外と文化レベル高いんだな。


「お三方はスペルシティーからいらっしゃったんですよね?」

「……そうなの?」

「儂が知るわけないだろ」

「あってる」

「あ、やっぱりそうなんですね」


 へぇ、あの街そんな名前だったんだ。


 知らなかった。


「私も一度行ってみたかったんですよ。スペルシティーは美味しい料理が沢山あると噂を耳にしたので」

「あそこの料理は美味ぇぞ〜。毎日毎日飽きないよ本当」

「儂……食べてない……」

「師匠は森から降りてこないからだろ。一回くらい遊びに来たらよかったのに」

「儂だって忙しいんじゃ!!特に主の薬の製作は集中力がいるんじゃよ!!」


 なんか逆ギレされた。


 でもあのお薬(安全だよ?)に助けられてるから何も言い返さないでおいた。


「じゃあさ、凛におススメの店聞いてみようぜ」

「え?」

「王都の美味いもん食えば、師匠も満足だろ?」

「ま、まぁの」

「凛ってこの後暇か?」

「は、はい。一応用事は済ませた後ですから時間は大丈夫ですが、私には案内は難しいと思いますよ?」

「店の名前だけ教えてくれれば、後はプラプラと歩きながら探すよ。だから一緒にどうだ?」

「え、えっと……」


 凛は少し悩みながらも


「わ、私でよければ」

「よっしゃ!!」


 こうして俺は現地ガイドをゲットした。


 感覚がない人って他の感覚が発達してるのを漫画でよく見た。


 つまり目が見えない凛は味覚が異常に発達しているから美味い料理を知ってるに違いない!!


 知らんけど!!


「芽依はどうする?店貸し切るか?」

「え!!貸し切りですか!!」

「……私はいい。王都は人が多過ぎる」

「そっか。じゃあ先にネインの言ってた家に行ってみるか」

「もう直ぐ到着じゃ。少しだけ揺れるが、落ち着くんじゃよ」


 俺は窓から顔を出す。


「すげー」


 モンスターの進行を防ぐ為の巨大な壁に囲まれているが、その壁からひょっこりと顔を出す大きな建物。


 おそらくあそこに、この国の王様が住んでいる。


「これが、王都か……」


 俺の心が大きく震える。


 ワクワクが全身に襲い掛かる。


「楽しみだ」

「ほれ、舌を噛むぞ」

「うお!!」


 突如馬車が大きく揺れる。


「バカ弟子、手を繋いでおいてやれ」

「え?何故?」

「英雄の力を弱めるんじゃ。このままでは儂の魔法が消えるからの」


 ああ、芽依の力を抑えろってことか。


「失礼」

「ん」


 芽依の手を握る。


 手を握る瞬間までは動悸が凄いが、繋いだ瞬間一気に和らぐ。


 この感覚が少しずつ癖になっているのは秘密だ。


「それじゃあ行くかの」


 体に強力なGがかかったと思えば


「な、何ですかこの感覚!!」

「すげぇ師匠!!やっぱあんた本物だよ!!」

「カカっ、ならもっと普段から敬うんじゃバカ弟子が」


 馬車が空を飛んだ。


 外を見ると、巨大な大都市が広がっていた。


 これが王都。


 これが異世界。


「こんな景色が見れるなんて、夢みたいだ」


 涙を流しそうなほどの感動に打ちひしがれていると


「清」


 芽依に手を引かれる。


「なんーーあ……」


 少し気まずそうにする凛の姿が目に入る。


 そっか、彼女にはこの景色が見えないのか。


「ご、ごめんなさい!!私のせいで……空気を悪くしてしまって……」


 何度を頭を下げる凛。


 その表情には少し涙が浮かんでいた。


「いやいや、俺らは別に何も気にして……いや、気になるな」

「出た、いつものバカ清」


 気になる。


 非常に気になる。


 こんな気持ちを抱えたまま、全力で楽しむことはできない。


 やっぱりこういう時は


「そ、そうですよ。やっぱり私は」

「みんなで体感した方が楽しいよな!!」


 俺は凛の手を掴んで


「とう!!」

「「え?」」


 空へと飛び出した。

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