王都編
第22話
「旅ってさ。突然モンスターに襲われたり、盗賊に襲撃されたりするもんじゃん?なのにさ」
俺は外を見る。
歩くだけで地面に大きな足跡を作るようなやつや、太陽を隠すような巨大な翼を広げ、獲物をその鋭い爪で捕らえようとするやつ。
まるで怪獣大決戦のような化け物共がそこら中を彷徨いているが
「誰も近付いてこない!!」
「結界を張っているのだから当然じゃろ。向こうからはいつもの道にしか見えておらん」
「いや凄いんだけどさ!!凄いんだけど違うんだよ師匠!!」
「何を文句言うておる。あれら一匹でも主は瞬殺されるんじゃぞ?」
「そういうマジレスが聞きたいんじゃないって!!」
遂に俺は涙を流す。
あーあ、泣いちゃった(他人事)。
「芽依〜、お前ならわかってくれるよな〜」
「どうして清はわざわざ強い敵と戦いに行きたがるの?バカなの?」
「真面目ちゃんだった〜」
ここにロマンを理解できる存在はいないようだ。
「はぁ……刺激のない旅だなぁ」
「なんじゃ、一回外に放り出してやろうか?」
「ごめんなさい」
素直に俺は席に座る。
街を出てどれくらい経っただろうか。
師匠はボケーっと外を眺め、芽依は何かの本を読んでいた。
「何読んでるんだ?」
「歴史書。昔の呪いがどこかに載ってると思って」
「なるほどな。進展は?」
芽依は首を横に振る。
何故英雄の力をまで呼ばれたものが、今では呪いとして扱われているのか。
何故そのことを誰も知らないのか。
その謎は未だに分かっていない。
「答えは自分で探せ……か」
最近は神様とあんまり喋ってないな。
まぁ最初の頃が特別だったのだろう。
いざとなれば教会に行けばまた話せるだろうし、そこまで深く考えなくてもいいだろう。
「ふわぁ〜、眠」
あまりにも変化のない旅に少しだけ滅入った俺は
「着いたら起こしてくれ〜」
「ん」
「全く、師匠の前で不躾な弟子じゃの」
そして俺はその瞳を閉じた。
◇◆◇◆
「ん?」
目を開けると、知らない場所にいた。
「どこだここ?」
俺はさっきまで馬車に乗っていたはずじゃ
「ここは……もしかして日本?って危な!!」
目の前を一台の車が通る。
「どうして元の世界に……」
今までの全てが夢だった?
いや、それにしては体が軽い。
病気持ちどころか、異世界行って鍛えているそのまんまの状態だ。
もしや夢を見ているのは今?
もしくは俺は二度目の異世界転移を果たした?
「おーい、神様説明プリーズ」
大声で呼びかけるが、返事がない。
どうやらお留守のようだ。
「どうすっかな」
とりあえず家に帰ってみるか?
いや、母さんはもう新しい人生をスタートしてる。
俺が行ったところで喜ぶだろうが、色々と問題も起きるだろう。
これ以上迷惑はかけれない。
友達のところは?
あいつなら笑いながら受け入れてくれそうだが、あんな別れ方でしといてどの面下げてだしなぁ。
「とりあえず適当に歩くか」
俺はプラプラと道を歩く。
見覚えのある景色が見える。
どうやら自分の住んでいた場所に来たようだ。
「あ、病院」
そこには俺の通っていたこの辺りで一番大きな病院。
ここで俺は厨二病と診断されたのだった。
「よく考えるとあの医者ヤバいな」
そんなことを考えながら歩いていると、病院から誰かが出てくる。
「杖?」
そこには一人の女の子。
歳は芽依と同じくらいか?
杖で地面を叩くようにして歩く。
「あの子……目が……」
盲目……か。
周りの世界を見ずに生きる。
俺には想像も出来ないことだ。
「漫画が読めなかったら、俺はきっと声優さんとしか結婚出来ない体にされていたのだろう」
そんなしょうもないことを考えていると
「キャッ!!」
悲鳴のような声。
「……」
女の子にぶつかった男は、何も言わずに迷惑そうな顔をして去って行く。
男にぶつかったせいで、点字ブロックを見失った少女。
なんか危なっかしいなと思っていると
「ちょ!!危ない!!」
案の定そのまま車道に向かって歩き始める。
「間に合えぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」
俺は鍛えた足を全力で回し、その手を掴む。
「君、そこ車道だから」
「あ……ありがとうございます」
俺は落とした杖を拾い、女の子に渡す。
女の子はありがとうございますと少し下の方にお礼を言った。
方向が分かったが、顔の位置までは特定出来なかったのだろう。
「すみません。ぼーっとしていて」
「嘘つけ。さっきぶつかった奴のせいだろ」
「見ていたんですね」
恥ずかしいところを見られましたねと、女の子は愛想笑いを浮かべる。
なんだかそれが、俺には気に食わなかった。
「怒らないのか?」
「……?どうして怒る必要が?」
「必要って……あいつのせいで君は今死にかけたんだぞ?」
「ですが、普通の人なら死んでいませんでしたよね?」
「はぁ?」
何言ってんのこの子?
「いやでも、君は目が見えてないから」
「はい。普通ではない私の落ち度によって、私は命を落としそうになりました。ですので悪いのは普通ではない私のせいです」
「なんてこったい」
確かに君、普通じゃないよ。
「悪いわけないだろ!!先天性か後天性か知らないけど、それが悪いなんて道理が通じていいわけがない!!」
俺は少し声を荒げる。
「君の状態は一種の個性だ。君にしかない、君だけが持ちいる様々なものがある。普通でないことは必ずしも罪にはならない!!」
個性は尊重されるべきだ。
確かに普通ではないかもしれない。
だが、それが生み出した普通ではないものは、多くのものに影響を与えることがある。
普通じゃないが悪なんて思考、俺は嫌いだ。
「素晴らしい考えをお持ちなんですね」
賞賛の言葉を吐きつつ、女の子の笑顔が消える。
「ですが、私は自分が嫌いです」
「……」
「確かに目が見えないことで生まれる良い結果も数多くあるのでしょう」
「そ、そうだ。だから」
「ですが、それ以上に私の生きる上には数多くの被害が出ています」
被害。
まるで自分が、存在することが悪であるかのような言い方。
「私の為に母は毎日早起きをして送迎をしてくれます。私の友人は私が歩く度に道を示したり、物を取ってきてくれます。私という存在が、周囲に気を遣わせてしまうんです」
女の子は俺の顔をジッと見る。
開いた目の中は真っ白だった。
「その時の表情は見えないのに、私には分かるんです。優しさの裏から……いらない子だって、一緒にいても大変だって、そんな顔が脳裏に浮かぶんです」
涙を浮かべる。
違うと、そんな筈ないと言いたい。
だけど俺に、その言葉を言う資格はない。
「普通がよかった。特別なんていらない。こんなものがなければきっと……本物が手に入るのに」
雨が降る。
人々が走り出し、世界中の時間が加速したように感じた。
取り残されたのは、止まる俺と、動かない少女。
「……ごめん。俺には君の考えが理解は出来るけど、共感は出来なかった」
「いえ……私の方こそ、突然こんなことを言ってすみません」
「俺は君のように目は見えるし、あの子のように誰かの手を握ることが出来る」
「あの子?」
「だから、俺が君に語る言葉は全て上っ面でしかないのかもしれない」
「いえ、そんなことはーー」
「だからこそ、言わせてもらう」
俺は大きく息を吸い
「うるせぇバーカ!!!!」
「……え?」
怒りをぶちまける。
「知るかよ!!目が見えない大変さとか、俺らが分かるわけないだろ!!こちとら今まで綺麗なもんも汚いもんも無限に見てるんじゃドアホ!!」
「な、なんですか突然!!いいじゃないですか!!私はそれすらも見ることが出来ないんですよ!!」
「よかったな!!夜のトイレとかもさぞかし怖くなかっただろうな!!」
「こ、怖いですよ!!小さな頃は普通に怖かったに決まってるじゃないですか!!」
「そっか、じゃあごめん」
「な、なんなんですかあなた。変ですよ?」
変……か。
「俺もよくよく思い返してみると、周りに迷惑ばっかかけてきたな〜」
「なんだか理由の一端を垣間見た気がします」
「おかしいな。俺は目が見えるのに、君と同じようなことしてる」
「私の方があなたと比べものにならない程迷惑をかけていますけどね」
「いーや、俺だね。100%俺。神に誓ってもいい」
「いえ、絶対に私です。特に神は信じていませんが、毎年お正月に神社に行くくらい信仰深いので、神に誓っておきます」
「じゃあ勝負しようぜ。どっちがより他人に迷惑をかけてるか」
「望むところです!!」
突然始まった謎バトル。
完全に他人を巻き込んだ勝手過ぎる俺らの競い合い。
「価値観を押し付けるつもりはないが、勝ったら謝れ。私の考えは間違いでしたってな」
「では私が勝てば認めて下さい。私は悪い子であると。愛されるべき人間ではないと!!」
「いいぜ。それじゃあ」
俺の体が透明になる。
「勝負スタートだ」
そして俺は目を覚ました。
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