第21話
「嫌だよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「俺だって離れたくねぇよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
道端でわんわんと泣き出す俺と愛菜。
「恥ずかしいからやめて」
「芽依!!ボッチのあんたに俺の何が分かるって言うのよ!!」
「……」
「あ、ごめん。泣かないで〜」
鼻声になった芽依を慰める。
普段は凛としている彼女だが、実際は対人経験ほぼゼロの女の子。
ボッチなんて言葉を言われたら傷ついてしまうのも当然だ。
「……初めまして、でいいのかな?」
まるであの時の俺のように、愛菜は前に出る。
「私の名前は愛菜。芽依……でいいのかな?」
「……うん」
「そっか。じゃあ芽依ちゃん」
愛菜はいつもと変わらぬ笑顔で
「文清は色々と危ないから、目を離さないであげてね」
「うん、任せて」
何か通じ合う二人。
「俺ペットか何か?」
そもそも最初から芽依に対してそこまで偏見が無かった愛菜。
今も自然体で話しているのがその証拠だ。
「これまであんまり話してこなかったけど、実は私芽依ちゃんと話してみたかったんだ」
「どうして?」
「いつもどこか寂しそうで、なんだか生きることが作業みたいな感じでさ」
「……」
あ、図星つかれて複雑な気分になってる。
それにしても愛菜は人の心を本当に良く捉えてるな。
「話しかけようと何度か考えたけど、足が止まっちゃった」
「……」
「私じゃ、芽依ちゃんをもっと傷つけちゃうんだって思ったんだ。今更なんだよって話だけどね」
芽依の過去の友達。
その子はきっと、愛菜のように明るくて、元気で、優しい子だったのだろう。
だからこそ、愛菜のような存在は芽依にとっては一番近寄って欲しくない相手だった。
もう傷つきたくないから。
もう二度と、誰も不幸にしたくないから。
そんな芽依の繊細な心をぶち壊した男がいるそうだが、俺にはよく分からない話である。
「でもよかった。今の芽依ちゃんは楽しそうで」
「……分かるの?」
「うん。今の芽依ちゃんは凄くキラキラしてるから」
ペカーと満点の笑顔を見せる愛菜。
芽依は本物のキラキラを前に少したじろぐ。
「私、本当に変わった?」
「相手が悪い。あれは毎日を楽しんでるエンジョイから生まれた怪物だ」
「ひどくない!!」
愛菜はプンスカと怒る。
俺も芽依も、それを見て笑った。
愛菜もそんな俺達を見て自然と笑顔になる。
うん、こういうのでいいんだ。
芽依は頑張ってきた。
だからそろそろツケを返して貰おう。
今までの不幸を吹っ飛ばすくらいの、平穏で、幸せな日々を。
「ところであまりに自然過ぎて聞かないでいたけど」
愛菜は指をさす。
「どうして二人は手を繋いでるの?」
俺と芽依が視線を合わせ、下を見ると手袋越しに手を握り合う二つの手があった。
「理由は二つある。まだまだ未知の要素だらけの呪いの検証。もう一つは芽依が初対面の人と話すの怖いからって」
「思ったよりも芽依ちゃんって女の子だね。じゃあ私も手を繋いじゃおっかな!!」
「あ」
「待て愛菜!!」
そして反対側の芽依の手を繋いだ愛菜は
「バタンキュー」
「やべ、気絶しちまった」
呪いによって気を失う。
「やっぱり俺以外はまだダメっぽいな」
「大丈夫そう?」
「ああ。急な体調の変化に体がビックリしただけだろ」
とりあえず気絶した愛菜を近くの椅子に座らせる。
てか凄いな。
漫画みたいに目がグルグルになる人っているんだな。
「俺と手を繋いでる間は呪いの効力はかなり抑えられるが、流石に直接だとダメか」
「清は大丈夫なの?」
「ん?俺はもう慣れた」
元々生きるだけで痛みがある人生だった。
それが苦しい程度で済むなら大したことじゃない。
「ごめん」
「何がごめんだ。それなら俺は芽依に何回謝らないといけないんだ」
君は命の恩人様だぜ?
恩返しするにはこれだけじゃまだまだよ。
まぁ一回殺された仲でもあるけど。
「寂しくなるな」
「また帰ってきたらいい」
「そうだな」
少し感傷に浸る俺ら。
するとタイミングよく
「なんじゃ、騒がしいと思えばやはり主か」
「ん?この声は師ーーうおぉおおおおおおおおおおおおおお!!師匠マジで空飛べたんだ!!」
「だから儂の言うことは全て信じろと言っとるじゃろ」
師匠が空から舞い降りる。
見た目だけ見たら天使が来たみたいだ。
「まぁ……実際は堕天使なんだろうけど」
「喧嘩を売っておるのか?」
「堕天使カッコいいだろ!!」
「……言われてみたらそうじゃの」
よし!!誤魔化せた!!
「さて、儂がここに来た要件は覚えてるじゃろ?」
「ああ」
俺は30秒くらい決めポーズの数々を披露し
「俺は王都に行くぜ!!」
「ま、そうじゃろうな」
あっさりと返す師匠。
「知ってたのか?」
「主の性格は知っておる。どうせ行きたくなると思ったからの二ヶ月じゃった」
「全部師匠の手のひらの上だったわけか」
ここで断ったら驚くかな?
ま、しないけど。
「じゃが、まさか一緒に連れて行くのが英雄の末裔とはの」
「ダメか?」
「問題はない。じゃが、儂もあれから色々調べての。王都に行けば、色々と問題に巻き込まれるじゃろう。それでも、行くのか?」
俺は芽依と顔を合わせる。
ああ、そうだな。
「問題」
「ない」
師匠はそれを見て、何度かうんうんとヘドバンする。
「仲良きことは美しきかな、というやつじゃな」
「師匠にもそういう時代があったんです?」
「……」
「見ろ芽依。あれが呪いもないのに青春時代を陰で暮らしてきた者だ。面構えが違う」
「可哀想」
「よし分かった。主ら置いて行くからの」
「すみませーん(笑)」
なんとか俺は師匠を説得し
「別れの挨拶は済ませたのかの?」
「ああ」
受付のお姉さんにドワーフのおじさん。
それから冬夜やネイン。
そして最後に
「なんちゅう顔で寝てんだこいつは」
愛菜は甘いものでも食ってる時のように、ニヤニヤと笑顔を浮かべていた。
「またな」
最後に愛菜のおでこに指を弾く。
痛そうに顔を歪めた愛菜。
「女たらし」
「最低じゃな」
なんか視線が痛いが気にしない。
俺は将来ビッグになる男だからな!!
「行こう二人とも。これ以上いると、名残り惜しくなっちまう」
「全く、寂しがりじゃの」
「師匠にだけは言われたくないな」
師匠がパチンと指を鳴らすと
「魔女じゃん」
「そう呼ばれる時代もあったの」
馬車が突然現れる。
「儂の魔法では英雄の末裔を飛ばすことができんからの」
「ごめんなさい」
「カカっ、旅を楽しめるのもまた一興じゃ」
俺と芽依は馬車の後ろに乗り込む。
「じゃあな」
そして、俺の新たな冒険が幕を開けるのだった。
◇◆◇◆
「そろそろ眠るふりはやめたら?」
「気付いてたの?」
愛菜はその大きな目を開く。
「よかったの?あんな別れ方で」
「うん。あれ以上喋ったら、引き止める気がしちゃって」
「そう。偉いわよ、愛菜」
「だーかーらー、私はもう子供じゃないから」
愛菜のほっぺを突くネイン。
「文清はきっと、私なんか追い抜いちゃうくらい強くなって帰ってくるんだと思う」
愛菜は拳に力を込める。
「文清が帰って来た時に、私のパーティーに入りたいって思わせるくらい、強くならないと」
「ふふ。ええ、その通りね」
「ネイン。昔みたいに、もう一回私も鍛え直して」
「次は弱音吐いてもやめないわよ?」
「え、あ、どうしよう……やっぱり止めようかな?」
「全くこの子は」
ネインはクスクスと笑う。
「彼に笑われるわよ?」
「それは……嫌だなー」
愛菜は勢いよく起き上がる。
「行こうネイン!!一秒でも無駄にしないために」
「そうね。行きましょう」
走る愛菜の後ろについて行くネイン。
「さて」
ネインは一枚の紙を広げる。
そこには王都の地図と、空き家の数々が載っていた。
「彼、気に入ってくれるかしら」
あまり人のいない家に、丸が付けられていた。
そしてその隣にもう一つ
「楽しみね」
ネインは年甲斐もなく盛り上が
「あ?」
ネインは若い心を躍らせるのだった。
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