第24話
俺は二人を連れて外に飛び出す。
綺麗な太陽が俺らを祝福するように照らす。
俺達は今、世界と一つになったのだ。
「師匠!!後頼んだ!!」
「清!!ホント、ホントバカ!!」
「ど、どういう状態なんですか今!!」
「どうだ凛!!これが空を飛んでる感覚だ!!」
全身を襲う空気の感触。
ただ身を任せた自由落下。
目が見えなくても、俺達は今同じ世界を体験しているのだ。
「もしかして……私達、落ちてます?」
「大正解!!」
「ごめん。うちのバカのせいで」
蟻のような大きさだった建物などが、次第に大きくなり始める。
それでも見上げる空の雲は変わらず大きなまま。
やっぱり世界は偉大だった。
「気持ちいい……ですね」
「景色は見えなくても、これなら楽しめるだろ?」
「はい。空を飛ぶ経験なんて初めてです」
「飛んでるじゃなくて落ちてるんだけど」
空気抵抗により、加速が次第に収まっていく。
逆に言えば最高速度へと近付いていってる証拠だ。
「ですがこれ、私達死にませんか?」
「大丈夫大丈夫。師匠が回収してくれるよ」
「このバカ弟子が!!」
「ほら来た」
馬車を空に浮かべたままこちらに追いついた師匠。
「よし、満足した。師匠〜回収よろ〜」
「無理じゃ」
は?
何言ってんだこのロリババア。
「師匠。今はふざけてる場合じゃないだろ?少しくらい状況を考えたらどうだ?」
「ふざけておるのは主じゃ!!英雄の力がある限り、直接魔法で浮かすのは無理じゃと何度言わせればよい!!」
「……あ」
俺は隣の芽依を見る。
「バカ」
「……ごめん」
あれ?
これ俺本気でやらかしたか?
「いやー、やっぱりテンションに任せた行動っていけないよな!!」
「反省してる?」
「結構心の底から反省してます」
普通にメンタルボロボロである。
何がまずいって俺や凛が死ぬことも当然最悪なのだが、このまま芽依が死んでしまうと世界が滅びることがヤバい。
死後の世界があるか知らないが、もしあるなら神様に合わせる顔がない。
なんとかせねば。
「師匠ー、これどうやったら死ななーい?」
「三つあるがどうする?」
「全部言ってくれー」
「まず一つ、主が英雄の末裔を見殺しにすることじゃな」
「……」
「あ、無理ー。他のは?」
「二つ目は主が頑張って英雄の力をゼロに抑え込むことじゃな」
芽依の呪いを封じるか。
俺は芽依を見つめる。
「出来ると思うか?」
「分からない。でも」
芽依は表情を変えず
「清となら、死んでもいい」
「そっか」
でも俺はまだ死んで欲しくないんだ。
「師匠ー。ラストー」
「はぁ、三つ目は儂がめんどくさいパターンんじゃ」
いつの間にか馬車が凄い速度でこっちに向かっていた。
「乗るんじゃ」
飛んで来た馬車に俺らは乗り込む。
だが、結局落下スピードは変わらない。
重量何百キロの馬車が地上へと急落下する。
そういえば馬どこいったんだろ?
「重いんじゃよな〜」
そして師匠は息を吐き
「フン!!」
ゆっくりと、スピードが緩くなっていく。
師匠がこんな真剣な顔をするのは初めて見る。
「よ、よく分かりませんが、もう大丈夫なんでしょうか?」
「ああ。本当にごめん」
「で、でも楽しかったですよ?ですよね、芽依さん」
「全然」
「あ……」
「マジですみません」
俺はとりあえずスピードが安定するまで、ずっと土下座をすることにしたのだった。
◇◆◇◆
「儂たちのような者は一般的な入り口からは入れんからの。とある場所で手続きを取る必要があるから、少し寄り道にはなるの」
「あの……文清さんは大丈夫なんですか?」
「こやつは少し反省させるべきじゃ」
俺は土下座スタイルから腕立て伏せの状態にされ、その上に師匠と芽依が乗っている。
頭にロリ、お尻ら辺に呪いっ子という配置になっている。
下に着くまではずっとこの体勢だそうだ。
「重くないんですか?」
「普段から幼女は乗せてるからな。少女が追加された程度じゃそう変わらん」
「……」
「ちなみに一分ごとに儂が重力魔法をかけて重くしていくからの」
「やっぱ無理かも助けて凛!!」
「あの、元々は私の為に文清さんが飛び出したんです。私が半分肩代わりというのはダメでしょうか?」
「ダメに決まっておろう。そもそも主は一つも悪いことはしておらんからのぉ」
……やっぱりか。
芽依と似ているな、この子。
「清。その格好でキメ顔してもダサいだけ」
「俺いつもこんな顔じゃなかった?」
「普段は間抜けた顔してる」
俺そんな顔なの?
ぬを!!
マジで師匠魔法かけてきやがった!!
でも今回は全面的に俺が悪いから何も言えねぇ。
「それにしても主、今から死ぬにしては随分と冷静だったの。こやつら二人は色々と例外じゃが」
「……」
「俺別に死にたくないからね!!」
「黙れこの自殺志願者」
更に重量が足される。
マジでキツいなこれ。
師匠の質問に凛は
「勿論死ぬのは怖いです。ですが、それが運命ならば受け入れるしかありません。それに、一人で死ぬことは悲しいですが、誰かとなら寂しくありません」
「主……」
「分かる」
芽依は頷く。
「死ぬことは怖くない。本当に怖いのは、死んだ自分が残していくもの」
「私なんかの死で残すものが、誰かの不幸になる。それが私にはとてつもなく怖いです」
「……おい弟子」
耳元で師匠が喋る。
「儂、ちょっとこやつら怖い」
「俺はあのタイプを自己犠牲の化身と呼ぶようにしてる」
「儂には一生理解できんの。自分の死より恐ろしいものなぞ儂には想像つかん」
「俺はあるけどな。自分が死ぬよりも嫌なこと」
「なんじゃ?」
俺はキメ顔で
「楽しむことを忘れること……かな?」
「バカ弟子らしいわい」
師匠はカカっと笑う。
芽依も凛も、自分の価値を卑下し、他人に対して罪を意識を覚えるタイプだ。
ただ二人の違いがあるとするなら
「求めているもの……か」
「なんじゃ急に」
「いや、こうして比べると師匠よりも芽依の方が色んな部分が柔らかいなと思ーー」
ドクン
「い、息が!!息ができん!!」
「お、落ち着くのじゃ!!主の力が暴走すれば魔法が」
「大丈夫。清を殺したら私も死ぬ」
「じょ、冗談だから!!そもそも芽依は色々着込み過ぎてなんも分かんないって!!」
こうして色々騒動は起きたが、なんとか馬車は目的地へと着いた。
「ゼェ……ゼェ……」
「大丈夫ですか?」
「どんだけ重力増やすんだあのババア」
「反省の色が見えんのぉ」
「グッ」
場所はとある森の中。
どうやらここに師匠の知人がいるらしく、王都へ入る手続きをするらしい。
「師匠の知り合いか。やっぱり凄いのか?」
「儂程じゃないが、それなりじゃな」
「ほーん」
未だに芽依に呪いをかけ続けられ、足がガックガクの俺だが一応顔だけカッコつけて待っていよう。
すると
「お、来たの」
師匠が反応する。
だが俺の視界には何も見えない。
一体何が来たとい
「これがライネットの見つけた弟子か。中々鍛えてるな」
「ウヲッ!!だ、誰だ!!」
突然体を触られる。
「ハッハッハ、元気でいいな。ライネットとは正反対だ」
「久しぶりじゃの、セイバー」
「おぉ〜。名前カッコよ」
そこには赤い髪をした男が立っていた。
愛菜のような明るい色ではなく、どちらかというと黒に近いような深い赤。
何故か服は着物を着ている。
腰には二本の刀を刺した、武士のような雰囲気の人だ。
てか
「雰囲気やばいな」
俺には『こいつ、出来る!!』みたいな力はないはずだが、このオーラは俺ですら強いと思わしめるものを放っていた。
「師匠!!この人カッコいい!!」
「おいセイバー。儂の弟子が儂に会った頃よりテンションが上がっておる。出直せ」
「ハッハッハ、あのライネットとあろうものが嫉妬とは面白いこともあるんだな。それにしても小僧、俺をカッコいいとは中々良い目を持ってるな」
着崩れた服から見える筋肉は、無駄を削ぎ落としたような美しさを誇っていた。
男として惚れる要素をこれでもかと詰め込んだ、俺の理想とする存在の一つがこの人なのかもしてないと思った。
「どうだ?ライネットよりも俺の場所で修行するか?」
「おいセイバー」
空気が重くなる。
「冗談はやめておけ。儂は歳で少し怒りやすくなっておる」
「おいおいライネット」
最早立っていられない程の圧が襲う。
「この距離なら俺の方が速いぜ?」
「試すか?」
「望むところだ」
や、やばいやばい!!
よく分からないが、多分この二人戦わせたらやばい!!
多分二人にとっての軽い喧嘩が歴史に名を残すタイプだもん絶対!!
でも俺が間に入ったところでどうすることも……
「あ」
いたわ。
この二人を止まられる人。
「芽依さん」
「何?」
芽依はこんな状況でも変わらず本を読んでいる。
「止めて下さい」
「はぁ」
芽依は手を前に出し
「ストップ」
「「ガハっ!!」」
二人が一気に地べたに倒れる。
うわ、芽依さん強すぎ!!
「な、なんだこれ!!全く力が入らん!!」
「お、おい!!儂にまで力を使うことはないじゃろ!!」
さっきまでどんなモンスターよりも怖く見えた二人が、今は小動物のように可愛く見える。
やっぱり呪いってチート能力だな。
「まさかこれは……呪い?」
「え」
セイバーの言葉に反応する凛。
「何を言うておるセイバー。これは英雄の力じゃろ」
「はぁ?ライネットこそ何を言ってる。俺でも噂聞いたことあるくらい有名な呪いの力だろ?これは」
「主こそ何を、昔共にあの英雄の姿は見たじゃろ」
「見たは見たが、あれは偶々呪いが上手く発動しただけだろ。ライネットの力はあくまでライネット自身の記憶を映し出したものだ。変な勘違いでもしてるんじゃないのか?」
地べたに倒れながらも口論する二人。
元気だなぁ。
「私の呪いでこんなに喋り続ける人、清以外にいたんだ」
「え?俺こんなダサい感じでいつも話してたの?」
「うん」
マジかよ、俺ダサ過ぎ。
今度からキメ顔で喋るようにしよ。
「とりあえず暴れることはもう無さそうだし、解除してやってくれ」
「分かった」
芽依が呪いを弱める。
二人は解放された後も、俺達には見向きもせず呪いについて喧嘩している。
それにしても
「まさか……でも何も見てない筈……」
「どうしたんだ、凛?」
「え?あ、すみません。少し……考え事を……」
声をかけると、驚いたように顔を上げる凛。
「大丈夫か?顔色悪いけど」
「だ、大丈夫です。その……案内の話ですが、やっぱり無しにしてもらえますか?」
「え?急にどうして」
「その……少し用事を思い出したので。あの……失礼します!!」
凛は逃げるように歩き去る。
「どうしたんだ?急に」
「清」
袖を引かれる。
「凛、あのままだと危ない。清がついてあげて」
「……それもそうだな。ここのことは任せる」
「うん。いってらっしゃい」
俺は芽依にこの場を任せて、凛の向かった方向に走る。
「じゃから!!どう考えてもそれは英雄の力じゃと言っておろう!!」
「だから、それが呪いなんだって何回言えば分かるんだ!!」
「落ち着いて」
「な、なんだ?また急に体が……」
「あやつ無しではまだ制御は難しい……か。あのバカ弟子はどこに行ったんじゃ」
「凛を追いかけに行った」
芽依は指を差す。
「なんじゃ。何かトラブルでもあったかの?」
「分からない。急に用事があるって」
「……それにしてもライネット。次の研究は呪いについてか?」
「別にあやつは儂の弟子が連れて来たただの友人じゃ。研究も何もーー」
「じゃあもう一人の方か?」
「もう一人?何を言っておるんじゃ主は」
「もしかして知らなかったのか?」
そして
「釘宮凛は呪い持ちだぜ」
運命の歯車が動き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます