第7話:助っ人?

 秋野先輩となぜか一緒に入る事になったお風呂もそこそこに、そろそろ寝る時間となってくる。

 ぼくが寝る場所はどこになるのかという問題は、「お泊り! お泊り!」と楽し気な秋野先輩によって、一緒の部屋で寝ることになっていた。

 客に床で寝かせるのはという問題も、ぼくが「家でも布団で寝ているので大丈夫です」と告げれば何とかなっていた。


 そうして秋野先輩の部屋の中。

 相変わらずぼくと一緒で女の子らしくない部屋。

 基準が妹だから、世間一般的の女の子がどうなのかは分からないけどね。


「ねぇ氷濃……、寝るの早くない? もう少しトークしようよ、トーク!」

「……いいですよ。といっても普段は九時就寝なので、この体勢でならですけど」


 ベッドに座る秋野先輩を見上げつつ、ぼくは「ふわぁ」と軽いあくびを溢した。


「寝るの早すぎない!? ごめん、よく十一時とかに起こしちゃって」

「別に問題ないですよ。講義の時間に寝ているので」

「氷濃って、そういうところあるよね」


 そうですかね?

 ゆったりとした人の話しと差し込む日差しって、良い眠りの環境だと思うけど。

 思い出したら瞼が重くなってきた。眠い。


「それじゃあ秋野先輩。先に寝ます。おやすみなさい」

「おやす! 氷濃。……ね…………す……」


  *  *  *


「氷濃、朝早くない? 何時起き?」

「四時起きですね。太陽が昇ると同時に起きます」

「……なんか、田舎に住んでいるじいじみたいね」


 よく妹から言われる。というより、先祖以外の家族から言われる。

 まだおしとやかであればアサガオだけど、縁側に座ってお茶を啜ってほっこりとした姿はもうおじいちゃんだって。

 これが俗にいう、先祖の背中を見て学んだ子孫って奴だね。

 小4の頃、道場から変な気配を感じて以来だから、実は結構長いんだよね。

 さてと、休日とはいえいつまでも寝間着でいるのはなんですし、ちゃちゃっと服でも……。

 あっ……。


「替えの服を持ってくるの忘れました」


 言った後に気づいた。

 これ失言だったかもしれない。

 なんせ、秋野先輩の瞳が、怪しく光ったような気がしたから。

 あからさまに上機嫌になり、自分の服を両手に滲みよってくる。

 いくら遠慮しても面白そうな笑みを浮かべて近づいてくるところを見るに、分かっててやっていますね。

 秋野先輩とぼくじゃ、身長がニ十センチも違うのに。


 四時起きですぐ自宅に帰る選択をした方が正解だったようだ。

 偶には先祖と修行しないで、ゆっくりするのもまた乙ですねぇーとかなんとか、腑抜けている場合じゃなかった。


「じゃあ、あたしの弟から服でも――」

「怒りますよ?」


 ええどうせぼくは男物の服の方が着こなせますよ。

 どうせぼくは小学生くらいの身長しか持ってませんよ。

 どうせぼくは――、まぁ胸はありますけどね。

 ええ、当然それはもう大きな二つのスイカが。

 だから秋野先輩は、そんなぼくの下をジッと見つめなくて結構ですから!


 無言で何かから目を背けるように黙りこくった秋野先輩から服を奪い取り、何回も内側に折り畳んで紐で固定する。

 ハーフパンツも同じように受け取り、それはもうきつくベルトで固定。

 なんでぼくはハーフパンツを借りたはずなのに、長ズボンを穿いているのだろうか。


「サラシって、武士っぽいね」

「そうでしょうかね?」


 昔からこれ一筋だったので。

 慣れるとサイズとか気にする必要なくなるから、楽なんですよね。

 ……個人差はあるだろうけど。


 着替え終えると、再びぼくたちは作戦会議。

 けど中々良い案は思いつかない。

 どうしても怪異から逃げ切るという結論に行きついてしまう。

 斬っても写真に残り続ける。

 なんていう怪異があればその限りではないけど、でも三十件以上やっていないんだからその考えは絶望的と言っても良い。


「やっぱりらちが明かない! 氷濃! 行くよ!」

「昨日言っていた、助っ人ですか?」


 勢いよく立ち上がった秋野先輩に、ぼくは昨晩を思い出しつつ見上げた。


「そ! なんかあたし達の新聞を見て、興味深いって言ってくれて! それで現状悩んでいるって答えたら!」

「協力してくれることになったと」

「そういう事! 行くよ氷濃!」


 秋野先輩は再びぼくの腕を掴み取ると、全力ダッシュ。

 引きずられつつも、何とか刀袋を手に取った。

 感触で中身を確かめる頃には、もう下の階まで下りていたみたいだ。

 リビングから戻って来ていた秋野先輩は、久しぶりに見た食パンを口に咥えていた。


「ひふほほふん!!」

「もはっ!」


 無理やり秋野先輩がぼくの口へと食パンを押し込んでくる。

 一気に口の中の水分が飛んだような……。

 そんなぼくの心情を知らずか、急かす様に再び秋野先輩が手首を掴んできた。

 グイっと引っ張られる。

 靴も綺麗には履かせてくれなかった。

 勢いそのまま外に出る。

 そのまま車を開け、秋野先輩の手で中へと押し入られた。


「乗った? 乗ったね! じゃあ、しゅっぱーつ!」

「出発じゃないです!」


 秋野先輩の助手になってから、久しぶりに叫んだような気がする。

 ポカンと驚いたように秋野先輩がぼくを見つめてくる。


「朝ごはんくらいはゆっくり食べさせてください。朝の大事なエネルギー何ですから」

「あっうん。ごめん氷濃」

「まだ七時ちょうど。こんな早くから向かって行って、そこで待っている人の方が怖いですよ。それにせっかく作ってくれたご飯を、遅刻する訳でもないのに食べないのは失礼です」

「あっはい」


 すっかり意気消沈した秋野先輩に説教をしつつ、ぼくは車から降りて朝食を食べに戻る。

 気づけば先輩の家族は揃っていたようで、戻ってきたぼくたちに驚きつつも迎え入れてくれた。


 きちんとごちそうさまをしたぼくたちは、改めて忘れ物がないかの確認作業。

 これも終えると、改めて車へと乗りこんだ。

 晴れ渡る雲一つない綺麗な青空。

 心の底から楽しそうな笑みを秋野先輩は浮かべると、レバーを引っ張り勢いよく車を発進させた。


  *  *  *


「そういえばその助っ人、本当に大丈夫な方なんですか?」


 秋野先輩にここまで連れてこられたけど、考えてみればどういった人なのか聞いていなかった。

 場合によっては、ってところかな。

 秋野先輩が興奮冷めやらない様子で答えてくる。


「多分大丈夫! 黒づくめの低い声で、怪異を取材? あれはお前らでどうなるものじゃない、今すぐ手を引け。みたいなこと言われたけど」


 助っ人の口調かな?

 なんだろう。

 絶対にまともじゃないまともな人だって事は分かりました。


「相手の人をどうやって納得させたんですか」


「んーん、納得はさせてないよ。それでも行く! って言ったら。なら、今までどれだけ幸運だったかを教えてやる。みたいなことは言われたけど」


 それで待ち合わせですか。

 それ助っ人じゃなくて助言者ですよね。

 その人の言う通り、ほんとよく今まで無事で済んできましたよね。


「っと、そろそろ待ち合わせ場所につくよ」


 秋野先輩は近くの駐車場まで車を走らせ止めた。

 ロックをかけ、秋野先輩が迷いなく進んでいくのでぼくもついていく。

 都会かー。

 現れるときは現れるんですけどね、怪異。

 あんまり危険系じゃなければ良いですけど……話しを聞く限り、それは無いですね。

 

「本当に大丈夫なんですよね?」


 ぼくたち一様女性なんですから。

 もし黒ずくめがーなんてことになったら、ぼくも刀で応戦するしかない訳で。

 秋野先輩って危機感とかがないですよね。


「だいじょぶだいじょぶ!」


 その自信はいったいどこから来るんですか。

 人によっては怪異より人間の方が怖かったりするんですよ。


 そうこうして付いた先は、人気のない公園。

 滑り台やブランコなどは徹底的に撤去されている。

 昔と違い、孤独で寂しさを肌で感じる。

 突き刺す様に暑かった日光も、伸び放題に育った木に少しだけ遮られ影が射し込んでいた。


 その中心で立っている、黒づくめ……というよりキッチリとした黒いスーツに身を包んだ男性。

 腕時計を眺め、ただならない雰囲気を纏わせる彼に、ぼくはそっと息を飲んだ。


 あの男性が……助っ人?


 秋野先輩は何の警戒心も持っていないのか、男性へと手を振って近づいていく。

 あっ、やっぱあの男性が助っ人なんですね。少し怖そう。


「どうもです! 海斗さん」

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