あなたの1番になりたいです。

青いバック

貴方の横に座らせて。

 ブーッと、携帯が一回、二回、三回、振動する。私は手に持っていたドライヤーを止めて、君からの電話に出る。


「もしもし〜? 元気〜?」


「元気に決まってるよ」


 いつものの会話。元気?と、毎回君は聞いてくる。その度、私は頬を少しだけ緩めて、君に元気と答える。生乾きの髪の毛が、喋る度に肩で揺れている。


 約束もしてないのに、毎日決まった時間に君と通話するこの時間が、私にとっての楽しみ。でも、それは同時に寂しさもある。


「ねね、聞いてよ。今日ね」


 声のトーンが上がって、陽気な子供のように話し始める君。

 あ、また始まった。私は、最低な心の声を押し殺して、君の話を聞く。


「うん、何があったの?」


「好きな人と一緒に帰ったんだ〜!」


「あはは、それ昨日も言ってたよ」


 好きな人と一緒に帰った。ととても嬉しそうに報告してくる君。ここ最近の君の報告事と言えば、ずっと好きな人の話ばかり。前までは、どこに行ったとか、今日何があった、とか他愛も無い些細な話だったのに。

 苦しむ心を隠し通しながら、私は平然のように返事をする。


「この後もね、電話するんだ」


「お、それは良かったね。って、君それ昨日も言ってたよ。全部デジャブじゃん」


「おっ、本当じゃんか」


 このあとも通話するという君に、「私はそれまでの繋ぎでしかないの?私とずっと通話しててよ」。なんて、我儘が言えたらいいのにな。

 朝まで通話していた君との時間は、深夜の一時で打ち止め。その時間に君の好きな人が帰ってくるから。私はそれまで、この心を殺しておかないといけない。君に迷惑をかけてしまうから。


「でね」


「うん」


 まだ出てくる君の好きな人の話。好きな人の好きな人。きっと、それはいい人なんだろうな、と心の底では分かってる。けど、最低であってほしいっていう、気持ち悪い感情を私は抱えてしまった。とても、醜くて汚い。こんな自分消えてしまえばいいのに。

 君が一番笑顔になれる時は、私が横に居る時じゃなくて、その人が横にいるとき、その人の話をする時、その人とやり取りをしている時。全部知ってるんだよ。君が笑顔になれる瞬間を。


「あっ、もう時間だ。じゃあね!」


「うん、バイバイ」


 君との時間の終わりを告げる、電話が切れる音。生乾きだった髪の毛は、いつの間にか乾いてしまっていた。

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