第71話 決着

 戦場に突如現れた馬車。一瞬、その場の全員がそちらに注目した。

 馬車はフレイシアたちから離れた場所に止まり、中から人々が降りてきた。なんと、降りてきたのは子供たちだ。男女も年齢もざまざまな子供たちが続々と降りてきては、今も戦う魔物とガージルに驚き呆然と見上げている。

 フレイシアがこの土地にやってきてから、湖を訪れた来客はデリックだけだ。こんな僻地に突然大勢を乗せて現れた馬車。一体何をしに来たのだろうか。


 今の状況も忘れて突然現れた子供たちを見ていると、その中にマイナとノイルの姿を認めた。デリックの店に待たせていたはずだが、一体何が起きているのか。周りの子供たちは何なのだろうか。

 二人は他の子供たちと同じようにガージルを見上げていたが、やがてこちらに気づいたようだ。


「フレイシア!」


 ノイルが叫んだ。

 子供たちの集団を離れ、こちらへ駆け出すノイル。しかし、今は危険だ。

 制止しなければとフレイシアが思った時、唐突に不穏な気配がした。驚き振り返ると、倒れ伏していたコリンダが震えながらも地に両手をついて身を起こしつつあった。充血して乾ききった目が、渇望にギラギラと光っている。その視線は近づいてくるノイルへと向けられていた。狙いは明らかだ。

 フレイシアは再びノイルのの方を振り返ると、叫んだ。


「ノイル、来ちゃだめ!」

「その命、こちらに寄こせえええええええええっ!」


 フレイシアの呼びかけに重なるように、コリンダの絶叫が轟いた。

 コリンダの身体から黒い霊体の腕が一本だけ伸びる。本当の最後に命をかけて放たれたであろう死霊術。急速に、そして正確にノイルの方を目がけて迫った。


 銃声。


 驚きに立ち止まったノイルのまさに目と鼻の先まで迫った黒い腕。しかし、それはノイルに触れる直前に霧散していった。

 見れば、デリックが構えた猟銃の先から微かな硝煙が消えてゆくところだった。その銃口が向けられた先にはコリンダ。腹部が真っ赤に染まっていた。呆然としたコリンダが撃ち抜かれて破れた自分の腹に目を落とし、それからゆっくりとフレイシアたちの方を見た。口からごぼりと血の塊を噴き出すと、そのまま後ろへ仰向けに倒れた。今度こそ本当に死んだのだろう。


「最後まで往生際の悪い奴だったな」


 デリックが銃を下ろして言った。

 死霊都市で非道の実験を繰り返し、帝国から逃げて二千年も大勢の命を奪ってまで人生を延ばしに延ばしてきた最悪の死霊術師コリンダの一生はこうして幕を下ろした。


 まさにその時、戦っていたガージルが竜の頭にとどめの拳を叩き込んだ。奇しくも主人であるコリンダの死と同時にガージルは勝利を収めたのだった。

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