第66話 突破口はどこに

「ケリー、飛んで!」


 フレイシアは自身の指先を傷つけ、ケリーに血を与えた。フレイシアだけで戦える相手ではない。

 ケリーはフレイシアの肩から飛び立ち、空中で真の姿を現した。大きくなった翼が風を掴み、力強く舞い上がってゆく。


「まあ、かわいい。貴女のペットかしら?」

「あなたを倒す仲間だよ」


 ケリーはフレイシアが生み出した、ガージルとは比べものにならない小さな小さな死霊術だ。それでも、持てる全ての力を出しきらなければ勝利はないだろう。


 ケリーは体格差をものともせず、敵の頭部へ向かって果敢に突進してゆく。対するガージルは羽虫でも払い除けるかのように左腕を振るった。

 激しい発砲音。続いてガージルの左腕に絡みつく霊体の腕が見えた。これはデリックの攻撃だ。半透明の腕たちが敵を締め上げ、ケリーを支援してくれる。

 横槍に攻撃を妨害されてガージルの左腕は狙いを逸らす。その隙をついてケリーはガージルの顔面に飛来。鋭い足の爪で目玉を抉った。

 即席ながら見事な連携だった。しかし、窪んた眼窩からは再び濁った目玉が湧き出てきて、すぐに治癒してしまう。


「くそっ……。おい、どうするんだ! これじゃあ、きりがないぞ!」


 そう叫ぶデリックのもとに、ガージルの拳が振り下ろされる。その腕へ向けて、ケリーがさっきのお返しとばかりに突撃。デリックへの攻撃は逸れて、地面を叩いた。

 デリックの言う通りだ。延々と再生を続ける魔術兵器ガージル。いくら危険を冒して攻撃を続けても、これでは甲斐がない。向こうは自分の身を省みないが、こちらは一撃もらったら一巻の終わりなのだ。


 フレイシアは必死に解決策を考えながら、魔術で氷の壁を作り出す。フレイシアへ振り下ろされていた拳は壁に阻まれて一時的に止まった。

 フレイシアは横目でコリンダを見る。ガージルの攻撃をギリキリで凌ぐフレイシアたちを、まるでショーでも見物するかのような余裕の態度だった。


(こっちがダメなら、術者から……!)


 前回と違って、今は黒幕の死霊術師が目の前にいる。馬鹿正直に手下から順に倒してやる必要はない。


 フレイシアは魔術を発動。灼熱の風が渦巻いて収束。フレイシアの指先に紅蓮の火球が生み出された。


「食らえっ!」


 フレイシアはコリンダを鋭く指差す。

 放たれた火球がごうごうと空気を喰らいながら猛進。熱風と共にコリンダへと一直線に飛んでゆく。


 ガージルがフレイシアへの攻撃を即座に中断。その大きな図体でどうやったのかと言いたくなる機敏な動きで火球の進路に倒れ込んだ。

 火球はガージルの横っ腹に直撃。激しい爆発が腐肉の体に大穴を穿った。砕けた肋骨と共に不気味な内臓の残骸がドロリと流れ出してくる。やはりこの傷もすぐに塞がり始め、大したダメージにはならなそうだった。


 再び起き上がってくるガージルを忌々しげに見ながら、フレイシアは止むなく防御の態勢に移る。


(あいつを盾にされと、やりにくいな)


 再生し続ける壁役とは厄介極まりない。

 フレイシアに続いてデリックも狙いをコリンダへ銃口を向ける。即座にガージルが反応して射線上に手を伸ばした。銃撃はあえなく巨大な掌に遮られ、その向こうでコリンダが余裕の笑みを浮かべている。

 その様子を見てフレイシアはふと思った。


(今度は自分で防がなかった……?)


 コリンダなら自力で銃撃を防げることは一度見て分かっている。ガージルを使ったのは単にその方が楽だからか。そう考えたところで、コリンダがついている杖が目に入った。


(いや、たぶん万全じゃ無いんだ)


 ガージルはフレイシアに一度倒されてから、生け贄を一人も食べていない。さっきのコリンダの話を信じるならば、コリンダはガージルを経由して力を補給している。今は臨時に町の少女たちから命を吸い出しているようだが、効率は悪いと言っていた。それこそ体調を崩すほどに。

 フレイシアは生け贄であるノイルとマイナを食べる直前に、それを阻止した。それだけ補給が差し迫った状態から無理矢理動いているのだろう。余裕ぶってはいるが、見た目よりも相手の状況は悪いのかも知れない。

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