第27話 小さな異変

 なかなか戻ってこないのを不思議に思って児童文学の書棚に向かい、フレイシアはそこでノイルが倒れているのを見つけた。


 驚いて駆け寄り、名前を呼んで体を揺すると、ノイルはすぐに目を覚ました。まるで夜更かし後の寝起きのようにぼんやりとした様子だったが、ひとまず命に別条はなさそうで、フレイシアはホッと胸をなで下ろした。


「何があったの?」

「わかんない……。急にクラクラしてきて」

「今は大丈夫?」

「うん。でも、ちょっと疲れたかも」


 フレイシアたちは本の会計を済ませると、書店を出た。このまま帰る予定だったが、念のため医者に寄ったほうが良いだろうという話になり、最寄りの診療所に向かった。


 医者が診てもこれといった異常は無く「単なる疲れだろうから、よく食べてよく寝ろ」という、あまり参考にならない診断とともに、滋養強壮に良いという煎じ薬が出ただけだった。

 グルベッドには治癒術を扱える魔術師の医者がいるらしいが、現状で普通に動けているノイルを連れてそこまで遠出すべきかは悩むところだった。長期の留守が出来ないということは、こういう不便も引き起こすのだと実感する。


 結局、早く帰って寝たほうが良いだろうという方針に落ち着き、その日は飛んで帰ったあと早めに夕食を摂って、日が沈む前にノイルは眠った。


          *


「ノイルの様子はどう?」

「静かに眠ってます」


 フレイシアはベッドで横になっているノイルの顔を覗き込んだ。顔色も良いし、うなされている様子もない。呼吸も静かで、いたって普通だった。


「これはホントにただの疲れだったっぽいかな」

「買ってきた本を早く読みたいって駄々こねてましたよ。明日にしなよって寝かせましたけど」

「そっか。まあ、駄々こねられるくらいなら大丈夫かな。でも、何か疲れるようなことしたっけ?」

「わたしはケリーに乗るだけでかなり疲れますね……」

「あはは、マイナはそうかもね」


 いつも元気いっぱいなノイルが疲れているとは珍しいと思う反面、いつもはしゃいでいるから疲れたのだろうとも思えてくる。


「ケリーは構ってもらえなくて退屈だったね」


 そう言ってフレイシアがノイルの隣に座るケリーを撫でた時、ふと気づいた。ケリーはノイルの右手首の辺りをしきりに気にするように見ては、嘴でつついたり頭を擦り付けたりしていた。見たところ、手首に何かついている様子もない。


「ケリー、どうかした?」


 フレイシアは聞いてみたが、ケリーも首を傾げるだけだった。何が気になるのだろうか。


「夕飯の肉の匂いでも残ってたのでしょうか」

「そうかもね」


 元気がつくようにと肉を多めの夕食にしたせいかもしれない。ノイルはたくさん食べていたし、きっと明日は元気になるはずだ。

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