生け贄制度は終了しました! ~人食いの守り神は倒してしまったので、生け贄の子たちはうちで守って暮らします~

加藤 航


「準備はできた?」

「うん」


 マイナが問いかけるとノイルは頷いた。

 マイナとノイルは街の孤児院で暮らす女の子だ。マイナは十四歳。ノイルは先週の始めに十歳を迎えたばかり。

 一回り小さなノイルの頭に手を添え、短く整えられた綺麗な金髪を撫でる。滑りの良い手触りと共に毛先が揺れて、ノイルの肩の上で踊った。


「マイナ、泣いてる?」

「えっ?」


 突然ノイルに言われてマイナは慌てて目尻を指で拭った。すると、小さく温かい水滴が指の上で潰れた。知らないうちに泣いていたようだ。


「ごめんね。やっぱり怖くって……」


 マイナは情けなくなった。四つも年下のノイルはこんなに平然としているのに、自分は怖くてたまらない。少しでも油断したらわんわんと大声で泣き喚いてしまいそうだ。許されるなら、今すぐ自室に駆け戻って、枕に顔を埋めて叫びたい。


「ノイルも怖い。でも、マイナが一緒だから大丈夫」

「ノイル……」


 その健気さに感極まってマイナはノイルを抱きしめた。体温と一緒に、心臓の鼓動が微かに伝わってくる。


 玄関の方から咳払いの音がした。

 今回の送り出しを担当する先生がマイナとノイルを見ている。少し伏目がちな憐れみのこもった視線を受け、もう時間切れなのだと悟った。


「行こっか」

「うん」


 マイナはノイルの手を取って玄関へ歩き始めた。月明かりの下、開け放たれた玄関から外に止まっている馬車が見えた。


 二人は今日、孤児院を出る。遠い北の街にいるお金持ちの家にもらわれる――ということになっている。しかし、その実態をマイナは知っていた。マイナだけでない。昔から脈々と受け継がれてきた伝聞で、孤児院の子供たちは皆なんとなく悟っている。ここを出た子供は、北の街になど行かない。


 二人は『守り神様』のところへ生け贄に出されるのだ。

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