紅蓮の瞳の少女

─お前の王位を剥奪し、無期懲役の刑とする


実の父親に宣言された言葉だった

事の発端は、白に近い灰色の髪を靡かせ

赤く燃える様な紅の瞳が輝き

青白い肌を黒いローブから覗かせる

幼い少女の言葉が発端だった


「…ねえ、アナタ?この国の王になりたくない?」


「…あ?なんだお前?」


そもそも俺は王族だぞ、次期国王だぞ!と、ナーティスは馴れ馴れしく話しかけてきた不気味な少女を邪険に扱う。


今、ナーティスは公務の全てを許婚の

アリスティアに押し付けて

城下町の裏通りにある酒場に

赴こうとしていた時だった。

酒場で酒と飯を食らい、何処に住んでるかもわからない、名も知らぬ顔の整った良い身体付きの女を、好きな様に好きなだけ抱くナーティスはそんな怠惰な日常を過ごしていた。


「アナタ、ナーティス王子でしょ?

現国王と許婚のアリスティア、あろう事か国民にも心底嫌われてる、哀れな哀れな可哀想なピエロ」


「知ってて俺に近づいたのか?」


「当然でしょ?それか、お金目的でなければアナタなんかに誰も近づかないわ」


少女はクスクスと嘲笑う。ナーティスは

その表情にカチンと来た、彼女の襟首を掴む


「…メスガキが…その身体にわからせてやろうか?」


「…アナタには無理よ、アナタでは私をどうする事も出来ないわ」


「このクソガキッ!!」


ナーティスが少女を殴り掛かろうと

拳を振りかぶる、殴りかかった

ナーティスの身体はピタリとその場で

止まり、固まったように一切動かない


「な…んだ…?これ…?」


「クスクス…動けないでしょ?私、アナタをこのまま殺す事も出来るのよ?

どう?一回死んでみる?」


固まったナーティス周囲を歩きクスクスと笑う少女ナーティスの耳元で陰鬱で邪悪に囁く、ナーティスの背筋に冷たいものが走った。


「どうする?今死ぬか、それとも私の命令に素直に従うか…さあ、今すぐ選んで?」


少女の青白い細指の長い尖った爪が

ナーティスの首に触れそのまま下へとなぞるとナーティスの皮膚の表面が裂け

鮮血が流れ出す。細やかな鋭い痛みがナーティスの肌を伝わる


「わ、わかった!俺は…お前の命令に従う…!お、俺はどうすればいい…!!」


少女は一歩下がって何処からか茶色の小瓶を

持ち出した。瓶の中には液体が入っている。


「この先の冒険者ギルドの食堂のカウンターで、ある令嬢が食事をしているわ…その令嬢の飲み物にこの薬を入れなさい、手段は任せるわ、飲ませたらその令嬢はアナタの操り人形になるわ…後はわかるわね?」


「し、しかし…この薬は成分とかが魔法でわかるのでは無いか?」


少女はナーティスの問いにニヤリと顔を歪ませる。


「それ、古の魔導薬だから身体に何も残らないし、依存症もないのよ、後、効果が出ている間は本人の記憶もないから…まあ、後はアナタ次第ね…私、アナタが国王になるの…期待してるから、後…出来なきゃ殺すから覚悟してねピエロさん。」


少女に脅されるままナーティスは茶色い

小瓶を受け取った。

少女は消えるように去り、ナーティスは

一人その場に残された。

ナーティスは少女の命令通り冒険者ギルドの食堂へと向かった。


その先に、自身の破滅への道が続いているとも知らずに。


そして、ナーティスの裁判が終わって間も無くの事、近衛兵がナーティスを連れて牢屋へと入ってくる。


「この中に早く入れ!」


近衛兵はナーティスを怒鳴り付け

彼を独房へとぶち込む

彼等衛兵もナーティスに対して

相当な鬱憤が溜まっていた様だった。


(チッ…王族で無くなった途端手のひら返しやがって…)


ナーティスは去り行く近衛兵に届かないが

唾を吐く。近衛兵が牢獄の入り口から外へ出て、すぐに誰かが入ってきた。

灰色の長髪、真紅の瞳、青白い肌…

紛れもないあの少女だ。


「お…お前は…お前のせいで…」


怒りが込み上げてきてワナワナとナーティスは震え出した


「クスクス…その姿と牢屋…ピエロのアナタにとってもピッタリね」


「貴様…ッ!!」


少女はクスクスと笑い続けるナーティスはその笑いが気に入らなかった


「…不愉快だ!さっさと失せろ」


「あら?アナタにとって良い話を持ってきたのに…残念ね…それじゃあ牢屋でゆっくりしてってね」


少女はくるりと振り返り、牢を去ろうとする


「…ま…待て…その…あの、なんだ、話ぐらい聞いてやる」


「クスクス…素直にそう言えば良いのに…」


少女はナーティスの方へと近づき

真紅の宝玉を手渡した。


「じゃあ、お願いするわね…この宝玉を握るか、飲み込んで、アナタの父親を憎みなさい…そうしたら…」


「そうしたら?」


「…早くて二年後にはウーゼル王が死ぬわ、その時にここから出してあげる。」


ナーティスは混乱した、まるで意味がわからない。


「…は?どう言う意味だ?」


「言葉通り、ウーゼル王の崩御の混乱に乗じてアナタを此処から解放するのよ、つまりこれは取引ね」


少女は邪悪な笑みを浮かべた。


「オレはどうすれば良い」


「ここから早く出たいのだったら、貴方の周りにある全てのモノを憎み続ける事ね、そしたら最速2年で出してあげるから……まあ、期待しないで頑張ってね。」


少女はニヤリと邪悪に微笑み入り口へと振り向く


「アナタの憎悪に期待してるわ、ピエロさん。」


そう言って少女は牢獄から居なくなった。

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