断罪

その日、ナーティスの裁判が行われた

全ての裁きをウーゼル王が司り

ナーティスに対する徹底的な断罪が行われた。

国家転覆やスパイ容疑など上げられた嫌疑は様々だが

一番大きなところの確たる容疑は

プリメラ・ルピティス伯爵令嬢に行なった

非道な行為が一番の争点となった

この騒動に関わったイスト王国の王子

ジークハルトやアリスティアそしてメルル

マクシミリアンやヴリュンヒルデなど

あの問題の渦中の人物達、

本来ならば祝福されるはずであった

結婚報告の披露宴に参加した

ほとんどの貴族がこの場へと召集された


ウーゼル王は事前にプリメラと会談し

ウーゼル王の判断の元、彼女の名誉の為

プリメラ自身の姿はこの場にはなかった


アリスティアとメルルはプリメラと

直接に会って話をしたかったのだがその願いは

今後、しばらくの間は叶う事はなかった


そして、ウーゼル王は厳格な表情から口を重く開く

それはナーティスにとって最後の審判であった。ウーゼル王から発せられる言葉は重しの様な重圧さがあった。


「……ナーティス……今一度問う。…ルピティス伯爵令嬢に薬を盛り、その後、彼女の純潔を汚したか?」


「……私は…彼女に酒と薬は飲ませましたが、彼女には手を出していません!…そもそも…手を出そうと思った時には毎回何故か眠って……あっ……」


必死さからかナーティスは思わず口が滑った

言動から察するに実行はしていないがその気はあったと言う事だ。

鬼の様に怒号を露わにしたウーゼル王は息を深く吸い込むそして、目を見開いた。


「……寸前で、命拾いしたなナーティス…誠に残念だ…仮に…もしも…もしもだぞ…他国の王族の参加する、国の威信にも関わる宴をぶち壊した上に、更に酒と薬を盛り、ルピティス伯爵令嬢にその汚らわしい手を出していたならば……

その様な外道は儂自らこの場にて剣を取り!!

貴様のその細首を今すぐに叩き斬っておったぞッ!!!」


「ヒィッ!??」


鬼神の様な圧力にナーティスはたじろぐ

呼吸は荒く、顔面は脂汗まみれだ


「王族の愚かな罪は民に示す為にも断罪せねばならぬ…。前王妃がなくなり、お前を不憫と思い儂も現王妃も、お前の我儘を律せなかった事は親である儂の責任でもある…だが、それらを差し引いても今回の行為は国家転覆に値する行為であるのは明白である。ならば尚更、厳格に処罰を下さねばならぬ」


王の間の空気はピリピリとして重い

アリスティアは重圧に押し潰されそうな

感覚を覚えた。


「…アリスティア様、私が付いております」


「ジークハルト王子…」


ジークハルトは震えるアリスティアの肩を優しく抱き引き寄せた。ジークハルトの優しい温もりを感じるとアリスティアもだいぶんと落ち着いてきた。


「ナーティス…判決を言い渡す」


「…」


ナーティスは青ざめた表情で俯いている

ウーゼル王は容赦なくナーティスを鋭い視線で睨んでいた。


「ナーティス、まずお前の王位継承権は今より永久に剥奪する。コレは私の死後も継続し、変更が効かないものとする、そして…」 


ウーゼル王が一間置いた時一層、空気が重くなった


「ナーティス、お前を国家反逆罪の罪人として無期限の懲役とする」


ナーティスはウーゼル王を放心した視線で見上げる。王の間は騒然となった。

王族が国家反逆罪として幽閉されるのも前代未聞だが、実の親である国王自らが実の子の王子を厳罰を与えた事も、このメリディエス王家の歴史上でも恐らく初めての事だろう。


「衛兵よ、この者を連れて行け」


「…」


ナーティスは放心し、虚空を見つめていた。

彼は騒めく観衆の視線を受ける中

数人の衛兵に抱えられながら、王の間から

力なく連れ去られていったのだった。



裁判が終わったその数刻後

アリスティアとジークハルトの二人は

王の間にへとウーゼル王に呼び出されていた。

先程の表情とはうって変わってウーゼル王は

穏やかで優しい表情でどこかにこやかだった。王の間にはマクシミリアンとヴリュンヒルデも居た。


「話は聞いたぞ…二人ともおめでとう、特にアリスティア……御主には大層な苦労を掛けた……近々別れが来るとなるとちと寂しいものだが……コレで良かったのかもしれん。」


「国王陛下…」


アリスティアが目を瞑れば王城で過ごした日々が思い出される。

素晴らしい王妃になる為に行なった数々の自己研鑽や勉学や嗜み程度ではあるが護身術の武道、座学の成績は良かったが実技がまるでダメだった魔法学等、数えるだけでキリがないぐらい色々な事を学んだ。

思えばナーティスとは王族で設けた食事の席を共にする程度で、結婚相手としての

普段の会話やそう言った事は殆どなかったように思えた。

ナーティスは身分を偽り酒場や歓楽街に入り浸り殆ど城を開けていた為である。

幼少の頃からナーティスには横暴さがあったのと、ウーゼル王が伴侶を決めるにあたり、まず初めに決定した複数の事柄から

アリスティアは最初から自分自身の幸せを棄てて国と結婚する覚悟でいたからだ。

しかし、今はもうその様な我慢をしなくて良いのだ、アリスティアの肩の荷は少し軽くなった気がした。


「…お姉様様、イストに嫁いでも、たまにはメリディエスに遊びに来て、また私たとお茶でもしてお話ししましょうね。お姉様、道中お気を付けて、どうかイストでもお元気でお過ごし下さい」


「ええ、喜んで、ヴリュンヒルデも元気でね、マクシミリアン様をしっかりお支えするのですよ。」


「はい、全力で頑張ります。」


アリスティアはヴリュンヒルデと手を合わせて互いに笑い合う。凛とした彼女の顔が笑顔になると一層華やかだとアリスティアは思った。アリスティアは愛しい妹の幸せを願っていた


「…アリスティア様が僕達に親身になってくれた事、一生忘れません。

僕もジークハルト王子の様に立派になって

ヴリュンヒルデと共にこの国を守っていきます。だから、またお二人で是非遊びに来てください。その時は歓迎いたします。」


「マクシミリアン様ならきっと立派な王様になれますわ」


「…何かあったらすぐに連絡をくれ。イスト王国が全力で君の力になる。」


ジークハルトは右手をマクシミリアンに差し出す、マクシミリアンは少し潤んだ様な表情でその手を握る。


「はい、二人ともお元気で」


マクシミリアンは微笑んだ。


「アリスティアよ、今後はジークハルト王子にしっかりと甘えて、イスト王国を支えるのだぞ、まあ、御主達ならば心配ないがな」

「はい、頑張ります、国王陛下!」


「…あ、いかんいかん、そういえば肝心な事を忘れとった!!マクシミリアン!!急いであれを!!」


「あ!はい!今すぐ!!」


マクシミリアンは慌てて王の間を後にする

ヴリュンヒルデはその様子を微笑ましく見ていた。この二人なら、ナーティスと自分とは

違った結果を出して、この国を導いていくのだろうとアリスティアは心の奥底で安心した。


「お待たせしました!!」


「はぁはぁ」と息を切らせながら

王の間に戻ってきたマクシミリアンの手には

一通の手紙が握られていた。ルピティス伯爵家の封蝋がされている。


「アリスティア…それはプリメラの手紙だ。御主の他にメルルにも送られてるでな…

まあ、魔導馬車での道中にでも読むといい。」


「ありがとうございます、国王陛下…」


「プリメラも前を向いて歩き出した…御主も先を越されん様、幸福を掴むのだぞ。」


「はい!」


アリスティアの胸の内にはコレから起こる

期待と新天地で起こることへの不安

愛する人とのコレからの日々

色んなことが溢れていた。


「では行きましょう、アリスティア様。

クゥエルレウス公爵夫妻やプリティス伯爵令嬢達にもご挨拶しなければいけませんからね」


「ええ、では国王陛下、またいつの日か」


「うむ、二人の未来に幸福あらんことを。」


ジークハルトはアリスティアの手を引いて

王の間を後にした。


クゥエルレウス家へ向かうイスト王家の魔導馬車の中でアリスティアはプリメラからの

手紙を読み込んだ。


─親愛なるアリスへ

まずは、手紙での謝罪をお許しください

貴女とメルルを傷付けたあの時から

二人の事をたびたび思い返しています

ナーティス王子に薬を盛られていたとはいえ

わたくしは掛け替えのない親友である二人を酷く傷つけてしまいました

それは、恐らく、わたくしの根底にある

アリスへの羨望と嫉妬、そしてアリスが

どんどんと先へ進んでしまう寂しさと焦りによるモノだとわたくしは思います。

わたくしが行なった事実は簡単に消せるモノだとは思っていません…ですので

自分を見つめ直す為に、一度貴族の社交会からは距離を置く事にしました。

…ですが…いつの日か、アリスとメルルとわたくしの三人で、また談笑しながら御茶会を

開ける日が来る様に精一杯努力いたします。

その時には…面と向かって貴女に謝罪をさせてください。貴女を傷付けて本当に…

本当にごめんなさい…。


追伸.ジークハルト王子とのご結婚おめでとうございます、親友としてアリスが幸福になる事を心よりお祈り致します。


─プリメラ・ルピティス


手紙の最後の方の文章は文字が滲んでいた。

それを見てアリスティアはプリメラの心情を察していたのだった…。


(…プリメラ…貴女って本当に…不器用ね…)


プリメラの手紙を全て読み終えて

アリスティアは手紙を胸に抱き、涙を流す。

そして、いつの日かまた彼女と笑い合って話せる日を来る様にしたいと思った。

アリスティアの頬に涙が伝う。


「…アリスティア…大丈夫ですか?」


アリスティアの目の前にいた

ジークハルトは心配そうに側に寄った


「ええ、大丈夫…。私は大丈夫です、ジークハルト…」


アリスティアはジークハルトの胸にしがみつき静かに泣き出した。

ジークハルトは何も言わずにただ彼女を優しく抱きしめるだけだった。

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