祝宴

アリスティアがジークハルトの

プロポーズを受けた事により

夕食時のクゥエルレウス家の食堂では

従者や使用人総出の祝いの宴席が設けられた、来賓としてアリスティアと一番仲の良い

メルル・プリティス伯爵令嬢を招待し

総勢五十人規模で行われた。

仕方ないにせよ、妹である

ヴリュンヒルデがこの場に

呼べなかった事がアリスティアの中で

少し心残りではあった

メルルは満面の笑みで「おめでとう!アリス!!私とっても嬉しいわ!!」とまるで自分の事の様に盛大に喜んでお祝いをしてくれた


アリスティアはこの様な宴が設けられた事

がとても嬉しかった。

アリスティアの両親クゥエルレウス夫妻をはじめクゥエルレウスの従者、親友のメルル

アリスティアと関わり、手助けしてくれた人々や親切にしてくれた人々

全ての人へ心の奥底からアリスティアは感謝をした


(…プリメラは今どうしているのだろうか…。)


祝福の中でもアリスティアには一抹の不安はあった

未だにプリメラの事が気になっていた

いつも通りではない確信が

アリスティアにはあったのだ

あの日からプリメラは無事でいるか

どうかが気掛かりでならなかった


「……アリスティア様……ルピティス伯爵令嬢の事が気になりますか?」


アリスティアの不安そうな表情をジークハルトはすぐに察した。

アリスティアは軽く頷く


「…ごめんなさい…この様なお祝いの時に…」


「…良いのです…その優しさこそ…アリスティア様なのですから。」


ジークハルトは優しくアリスティアの手を握り微笑む。ジークハルトの温もりをアリスティアは感じていた

それはどこか懐かしくもあった。


「…詳細は説明できかねますが、ルピティス伯爵令嬢は自分で道を切り開ける方です、アリスティア様が信じ続ければ必ず再会出来ましょう…ですので、どうか、笑っていて下さい。」


ジークハルトの表情は時折、フィーリウス少年の時の可愛らしさをアリスティアに思い出させる。


「ええ、ありがとうございます、ジークハルト王子…。」


アリスティアはジークハルトに微笑んだ。


程なくして祝宴はお開きとなった

周囲はすっかりと暗くなっていた

街路に備え付けられた魔導鉱石の街灯が

自動的に灯り始める。


参列してくれた貴族達にお礼を言って回るクゥエルレウスの人々

アリスティアはメルルと別れを惜しみながら

メルルが家路につくのを見送った。


なかなか盛大に盛り上がっていた所為で

クゥエルレウスの使用人達があくせくと

後片付けを行なっているのが見えた。


父のクゥエルレウス公爵は

アリスティアのイスト王家への嫁入りが

決まった事が嬉しかったのか

ジークハルトと飲み比べている途中で

酔い潰れてしまいフロリーナは「まあまあ」と言いつつも嬉しそうに介護をしていた。


「ジークハルト王子…お父様に付き合ってかなり飲まれた様ですけど、大丈夫ですか…?」


「…ご…心配なく…この程度…なんと言う事は…」


クゥエルレウス公爵にほんの少しの量のワインを勧められて飲んだらしいが

少しふらつくジークハルト

不意にアリスティアは彼の身体を支えた

ジークハルトの顔が赤面する

それは照れて染まったのか、それとも

ほんの少しの酒の所為なのかはわからなかった。しかし、アリスティアの父レイゼルもお酒は弱く、この様な感じで母フロリーナに支えられていた事をアリスティアは不意に思い出していた。


「…ありがとう…ございます」


ジークハルトの照れくさそうな表情の赤くなった顔を見てアリスティアも頬を紅潮させた。

ジークハルトはふらつきながらもアリスティアの負担にならない様になんとか踏ん張る、二人で支え合いながらクゥエルレウスの屋敷を歩いて行く。


「…どう…いたしまして…このまま…お部屋にご案内いたします」


「…はい、アリスティア様…」


ジークハルトはアリスティアに付き添われて

素直に用意されたクゥエルレウス家の来賓用の寝室へと向かう。

寝室のベッドに倒れ込む様にそのまま仰向けとなり、ジークハルトは眠りについた。

アリスティアは微笑みながら彼の上に

風邪をひかない様にと毛布を一枚かけた。


「ジークハルト様…おやすみなさいませ…」


ジークハルトとアリスティアの

一部始終を遠くから見ていた

ミーティリアは屋敷の客室に

料理と酒を持ち込んで食事を

楽しんでいたアルクスの服の袖をギュッと強く引っ張ると

「…二人が羨ましい…私もああ言う事がしたい」

とだけ言い、アルクスは何事かとミーティリアの発言に混乱していた。

「朴念仁」とアルクスに言葉の追撃をする

ミーティリアは何故かムスッとしていた


アリスティアはジークハルトを寝室のベッドにゆっくりと寝かせた後

ジークハルトの初めて見る

無防備な寝る姿に胸が少し熱くなった

ジークハルトは穏やかな寝息を立てる


「アリスティア…貴女を愛して…」


そう寝言を言いながらジークハルトは完全な眠りについた。


「ジークハルト…わたくしも貴方を愛していますわ…。」


ジークハルトに穏やかにそう呟いて

アリスティアは寝室の扉を静かに閉めた。


翌日、アリスティアは毎日のルーティンによりマリエルに髪の毛を仕上げてもらった。

やはり…今日も気合が入っている…アリスティアはそう思った。

薄紫色のワンピースドレスを羽織り

マリエルに部屋の片付けをお願いした後に

寝室から通路に出ると、とても肌艶の良い満面の笑みのミーティリアと

やたらげっそりとした青白いと言うよりも青暗い顔のアルクスに出会った。


「おはよう、アリスティア様、よく寝れた?」


「ええ、お陰様で、ミーティリアはとっても元気そうね…その…アルクス様は…?」


アリスティアはげっそりと青ざめた

アルクスが少し心配になった、昨晩の食事で何か当たったのか、それとも何かの持病なのかと。


「……き……気にしないで……ちょっと……ほんのちょっと魔力を…出…使い過ぎただけだから……」


「…アルクスは昨日、沢山頑張ったから…今日は出涸らし…アリスティア様の用事なら全て私が引き受ける。まかせて」


「?…そうですか、アルクス様お大事になさって下さいね?」


アルクスは無言で手を挙げた。ミーティリアはふらつくアルクスを支えていた、まるで昨日のジークハルトとアリスティアの様であった。二人の仲睦まじい姿を見てアリスティアは微笑んだ。


アリスティアはジークハルトと一緒に

朝食を取ろうと起こしに行く為

ジークハルトが眠る来賓寝室へと向かう。

アリスティアが扉をノックしようとしたら

自然に扉が開いた。


「…あっ…おはようございます…ジークハルト…様」


「おはようござい…ます…アリスティア…様」


二人の頭の中ではつい昨日の出来事が

今でも続いている気がして

思い出され互いに頬を紅潮させた。


「…朝食…一緒にいかがですか?」


「はい…喜んで」


二人は手を繋いで仲良くクゥエルレウス家の食堂へと向かっていった。

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