ジークハルトの指輪
クゥエルレウス家の従者に案内され
何人かの護衛を伴った
ウーゼル・メリディエス王が
皆が待つ応接広間へとやって来た
比較的軽装だが片手には代々王家の代表者に受け継がれる宝飾杖を持ち、厳かな外套に身を包んでいた。
厳格な表情だが、周囲に目配せするその視線は何処となく穏やかで優しい。
座っていたアリスティアもスッと立ち上がる
「そう畏ってくれるな…今日の儂は皆に謝罪しに来たのだから…。」
するとウーゼル王は杖を従者に任せて
その場で跪いて頭を垂れた。
窓の外を相変わらず見ているミーティリア
以外の者達はいきなりの出来事に驚愕する
「儂が至らぬばかりに、アリスティア初め、イスト王家、他の様々な貴族にまで多大な迷惑をかけてしまった!特にアリスティア、御主に対してあの馬鹿息子がとんでもない非礼をしてしまった謝っても謝り足りぬ、本当に申し訳ない」
ウーゼルは頭を地面に擦り付ける
アリスティアはウーゼルの肩を支え寄り添う
「頭を上げてください、国王陛下…」
アリスティアはウーゼルを支えながら立ち上がらせる、ウーゼルの厳格な表情の
頬には涙が伝っていた。
ウーゼルにとっては王国まで
馬鹿にしたナーティスの態度が
それほど迄に悔しい事だった
「アリスティアよ…昔、お主が言った事を覚えておるか?」
「…はい、ナーティス王子が放蕩生活を止めぬ限りは操を許さず結婚をしない、と、その言葉、覚えております。」
ウーゼルは静かに頷く。
「そう、かつて御主の本心を問うた
時に儂は確信した、アリスティアに認められないならば、ナーティスの王位継承は無いとな。だから王位の継承は"アリスティアとナーティスの結婚"を前提としたモノだった。」
するとアリスティアの隣に居る
ウーゼルの拳がワナワナと震え出した
これは怒りから来るモノだ。
「…あの馬鹿者は何を勘違いしたのか!
自分が結婚すれば良いと勝手に
解釈して、今の今まで皆に迷惑を
掛けて来たのだ!!」
ウーゼルのアリスティアを見る目は哀しみに染まっている様に感じられた。
「…アリスティアよ、今まで王家に尽くしてくれて、本当にありがとう。御主には、今の今まで苦労をかけてしまった…今後は御主の幸せを探しなさい…どの様な結果になろうと儂は御主の幸せを心より願っているよ。」
「もったいなきお言葉ですわ…」
ウーゼルはそう言い終えるとジークハルトの方へと身体を向ける。
「…ジークハルト王子並びにイスト王家に対してバカ息子の行った行為は到底許される事ではない、いかにして詫びれば良いのか…」
「国王陛下、この件に関して父上に伝えるつもりはございません。ですのでナーティス王子の問題の処遇に関しては国王陛下にお任せします。」
「すまぬ…ジークハルト王子」
「…ですが、アリスティア様に掛けられた冤罪に関しましてはこちらで捏造の証拠を手に入れました。…来てくれ、アルクス」
すると応接室の隅、ミーティリアの目の前に
一瞬にしてローブを見に纏った男が現れ
穏やかな表情でペコリと会釈した
「初めまして、皆様、どうもこんにちは」
「え…?…一体何処から?」
アリスティアは驚いた。一体どの様な
魔法を使えばこの様な芸当が出来るのか
想像もつかなかった。
「アルクス、首尾はどうだ?」
アルクスは懐から魔導鉱石を取り出す。
「…音声記録だけだとつまらないので
せっかくなので状況映像を記録して来ました。」
「なんと…イスト王国の魔導師殿はその様な芸当が可能なのか?」
「国王陛下、お言葉ながらこの芸当が出来るのはイスト王国でもこの者だけで御座います。」
「…兄さんならもっと凄い事が出来るけど…多分、今から呼んだら怒られそうだし、まあ、コレでも証拠としては充分だと思いますよ、国王陛下」
アルクスの話し方は異様にフランクだが
不思議と嫌悪感を感じさせない雰囲気がある。アルクスの瞳の奥は年相応ではない濃厚さと闇を抱えている様に思えた。
「…アリスティア様達にはちょっとショッキングな映像ですので、内容を確認されるならば席を外された方がよろしいかと。」
「いや、よい、儂も我が国の若き騎士団長のお陰で、概ね情報は掴んでおる…
内容は大凡予測出来るでの。後は大馬鹿者に証拠を突き付けるだけじゃ。」
その後、ウーゼルは支えてくれたアリスティアに礼を言うと従者から杖を受け取った後
アルクスから魔導鉱石を受け取る
「事が済み次第、後日、皆に改めて謝罪と謝礼を…ではまた。」
そうしてウーゼルは応接広間を後にする
王を見送る為にクゥエルレウス夫妻とアルクスは外へ出て行った。
応接広間にはジークハルトとアリスティア
そしてマリエルとミーティリアの四人が残った。
「ジークハルト王子、私達どうしましょう…?」
「アリスティア様…少し散歩でもしませんか?」
「ええ、喜んでご一緒致しますわ」
三人はクゥエルレウスの庭園へと出た
侍女のマリエルは二人を邪魔しない様に
庭園近くのテラスでお茶の準備をしていた。
ミーティリアはマリエルの手伝いをしつつ
マリエルにおすすめされたお菓子を摘み食いして喜んでいる様だった。
ジークハルトとアリスティアは庭園を
ゆっくりと歩く
(この庭園を散歩するのも久しぶりね…)
ナーティスの許婚になってからというもの
日々が勉学と自己研鑽の毎日でなかなか
クゥエルレウスの実家でゆっくりもしていられなかった
庭園を歩くとやはり昔の思い出が蘇る
「…それにしても、この庭園は変わらず落ち着きますね。」
「ジークハルト様はクゥエルレウスの庭園をご存知なのですか?」
ジークハルトは歩を止め一間置く
そして、いつも以上に真剣な眼差しで
アリスティアの目を見た
その表情に胸が熱くなる感じがした。
「では…アリスティア様…少し、昔話をしましょう」
そして、ジークハルトは語り出す。
イストの国にまだあどけない少年が居ました
少年が5歳の頃、少年の住む国では
叛乱と混乱が起こり、少年の両親は昔から
親交のあったクゥエルレウス家へと
少年を避難させました。
クゥエルレウス家へと避難した少年は自分の国と両親を心配して
心が折れかけていました。
その時、一人の同い年の少女に出会いました。
少女はとても明るい笑顔で少年に接し
少年の心も自ずと明るくなりました
クゥエルレウス家の人々はとても優しく
少年にとってクゥエルレウスで過ごした
日々はとても幸せなものでした。
約二年間という短い期間の中でしたが
少年は少女に恋心を抱きました。
しかし、急遽両親からの手紙により
少年は少女に別れも恋心も
自身が持った重大な秘密も告げる事なく
自分の国へと帰っていきました。
「その少女の名前はアリスティア…そして、少年の名は……フィーリウス」
「!!…何故王子がその名前を」
「…アリスティア様…私がフィーリウス・レグルスです、王子である身分を隠し、貴女を今の今まで欺いていました…」
アリスティアは両手で口を塞ぐ
胸の鼓動が早くなるのを感じた
瞳にが潤んで視界が歪む
「…そして…アリスティア様、私が今ここに居られるのは…全て、クゥエルレウス家とアリスティア様のおかげです。」
アリスティアはジークハルトの胸へと飛び込み顔を埋める、ジークハルトは胸にとても熱いものを感じ、優しくアリスティアを抱きしめる。
「ずっとずっと…会いたかった…」
アリスティアはジークハルトの胸の中で
涙を流す、それは色々な感情がごちゃ混ぜになって感情の制御が決壊した涙だった。
「…私もずっと貴女に真実を伝えたかった。
…貴女が8歳の時、ナーティスの許婚になったと聞いた時には、どれほど悔やんだ事か…ですがもう私は我慢をしません…アリスティア様…私は貴女を愛しています」
「フィーリウス…いえ、ジークハルト王子…」
ジークハルトは一度アリスティアから離れ
その場で跪く。そして、あの時と同じ様に
懐から指輪の入った小箱を取り出して開く
白金に美しく輝く指輪が現れた。
ジークハルトは深く息を吸って
アリスティアの顔を真剣な
眼差しで見上げる。
ジークハルトの表情に
アリスティアの胸が一層強く高鳴る
「アリスティア様…再びお伝えします
…私と結婚してくださりませんか?
私の人生の伴侶となってくださりませんか?」
「…ええ!!…ジークハルト王子のプロポーズ、私、喜んでお受けいたします」
ジークハルトのプロポーズに
涙で濡れたままの顔のアリスティアは
喜び、満面の笑顔で答える
ジークハルトはアリスティアが差し出した
(とても…綺麗な指輪…)
左手の薬指に指輪をはめる。
アリスティアの左手に収まった指輪は
一層の輝きを放っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます