魔王、育てます！

#002 魔王様は、超絶キュートなロリっ子でした！

「ようやくお目覚めか、ライア＝ドレイク。早速だが、生き返った気分はどうだ？」

　ベッドの上で目覚めると、俺はいきなりそんなことを告げられた。

　なんてことはない、普通のベッドルームだ。

　さっきまで森の中にいたのに、どうしてこんな場所に？

　そして俺にそんなことを告げた人物は、目の前の椅子に座っている。

　間違いない、声を聞いて確信した。

　目の前の彼女は、俺が死に際に聞いた声の主である。

　綺麗な紫色の長髪と、真っ赤な瞳を携えた少女。

　年齢も身長も俺より低く見える。

　それと相反するように、豊かな乳房。

　顔はまだ幼いながらも、人間離れした美貌……。

　どころか、彼女は本当に人間ではないらしい。

　少女の頭には立派なツノが生え、黒い尻尾がやたら元気にウネウネと動き回っている。

　彼女の容姿に驚きはしたが、同時に納得もした。

　俺は一度、確実に死んでいるのだ。

　それを生き返らせるなど、人間にできる芸当じゃない。

　そんなことができるとしたら……。

　俺が心当たりを思い浮かべると、彼女がハッキリと答えをくれる。

「改めて自己紹介だ。余はアリシア。『魔王』、アリシアである。人間としての貴様は一度死んだが、余の眷属として魔族に転生してもらったぞ」

　──魔王。

　彼女は確かにそう名乗った。

　魔王とは、人間と長年に渡って争い続けている魔族の長。

　人間よりも遥かに神秘に近い存在だ。

　奇跡を起こすことすら可能と言われている。

　それなら、俺を生き返らせることができたのも納得だ。

　だが、どうにも腑に落ちない部分がある。

　魔族と人間は百年を超える戦争の真っ最中だ。

　その前線に俺は送り込まれ、目の前で何人もの仲間が殺されている。

　人間にとって魔族とは恐怖の象徴なのだ。

　少なくとも、俺はそう思っていた。

　だと言うのに、実際に目の前に現れた魔王がこんな──

「つまり貴様は余の下僕になったわけだ！」

「……は、はい」

「ならば、主の命令は絶対だな！」

「お、おう……」

「では命じる、余のことを褒めよ！」

「お、おう！」

「余は可愛いか！」

「か、可愛いです！」

「なら余の頭を撫でろ！」

　──こんな可愛らしい存在であっていいのか？

　俺の膝の上に飛び乗って甘えてくる魔王様。

　特に頭を勢いよく突き出し、猛烈にナデナデを要求してくる。

　愛らしい小動物を相手にしてるような感触だ。

　今すぐギュッと抱きしめて、頭を撫でたい衝動に駆られる。

　魔王様に言われた通り、頭を撫でてみると。

「フフーン。それで良い。素晴らしい撫でられ心地だぞ。余は褒められるのが大好きなのだ」

　満足げな顔で喜ぶアリシア様。

　正直、めっちゃ可愛いです。

　なんだ、この心の奥底から湧き上がってくる気持ちは？

　自然と、この子を守ってあげたい気持ちになってしまう。

　そんな、魔性の魅力をアリシア様から感じた。

　なんてことを考えていると、ふと別の女性の声が聞こえる。

「コラコラ、アリシア様。いきなりそんな甘えてしまっては、ライアさんが困ってしまいますよ？」

　部屋の隅から、メイド服を着た金髪の女性が現れる。

「……あなたは？」

「初めまして、ライアさん。私はアリシア様の従者、グロリアです」

　ニッコリ笑顔で答えるグロリアさん。

　とても素敵な笑顔だ。

　声音もゆったりと優しい印象を受ける。

「あ、どうも。初めまして……」

　俺がぎこちなく挨拶を返すと、グロリアさんはクスッと笑う。

「すみません、ライアさん。いきなり騒がしくしてしまって」

「……アハハ、お気になさらず」

　苦笑しながら俺が返す。

「ところでその、この状況はいったい？」

「そうですね。突然、色々なことがありましたから。順を追って説明しましょう」

　丁寧に話を進行してくれるグロリアさん。

　親切な人たちだ。

　魔族だからと言って、二人が悪い人のようには見えない。

　グロリアさんが説明を始める。

「私たちは魔界から追い出され、二人きりで人間界へやって来ました。そして、魔界と人間界との狭間に位置するこの場所で、死にかけのライアさんを見つけたのです」

　魔界とは、人間界シャロア帝国の北部に広がる魔族が治める土地だ。

　本来、その地の長に君臨するのが魔王様である。

　その魔王様が人間界にやってくるなど、余程の理由があってのことなのだろう。

　グロリアさんが続ける。

「私たちには、致命的に戦力が足りなかった。だからライアさんを魔族に転生させ、戦力を補強しようと考えたのです。私たちの都合でライアさんを巻き込んでしまったこと、まずは謝罪させてください」

　言って、深く頭を下げるグロリアさん。

　なるほど、それなら納得だ。

　そして、グロリアさんが俺に謝罪する必要もない。

　何故なら、俺は既に救われているのだ。

　死にかけのところを助けてもらった。

　受けた恩は、返すのが道理というものだろう。

　その思いを、二人に聞こえるように俺が伝える。

「謝罪の必要はありません。俺でよければ、いくらでも協力しますよ。まあ俺にできることといえば、そんなに多くないんですが」

　俺が言うと、二人ともとびきりの笑顔で喜んでくれる。

　特に、アリシア様の喜びようは半端じゃない。

　俺の両頬を力一杯揉みながら、犬の顔をイジるように動かした。

　上機嫌にアリシア様が続ける。

「よく言ったぞ！　流石、余の一番の眷属だな！」

「ええ。俺でよければ、アリシア様のために全力で頑張らせてください」

　すると、アリシア様が思いっきり俺の頬を押し潰した。

「なんれ……れすか？」

「様付けは辞めろ。気に食わん。余は、好きな相手には呼び捨てで呼ばれたいのだ」

　微笑むアリシア。

　そう言われたら、従うしかないじゃないか。

　何故なら。

「主の命令は絶対。だもんね、アリシア」

「うむ！」

　笑顔で向き合う俺とアリシア。

　続いて、グロリアさんがお辞儀をしながら言う。

「そう言ってもらえると、私としてもありがたいです」

　聞いて、安心する俺。

　どうやら俺は、アリシアにもグロリアさんにも受け入れてもらえたようだ。

　魔族になって、俺に何ができるかはまだ分からない。

　だが今は、この二人のために生きていられればそれでいと思う。

　これから始まる俺の魔族生活。

　そこにはいったい、どんな物語が待っているのだろうか？