序章

 愉快であるから笑うのか、笑うから愉快であるのか。

 ――理由の探求は無意味。存在証明は全て自明。そうあるがままに笑顔を浮かべれば、銀の匙に始まる生は万事如意。ままならぬことなど何処にもありはしない。

 次々と水面みなもに生じる波紋のように、女たちのドレスが代わる代わる円を描いて広がる絢爛な人生。祝福された手を取らぬ女はいない。男女身一つに踊って踊って、相手を替えてまた踊る。悦楽の記憶の端々、走馬灯のように顔を覗かせる女たちは、片目を瞑れば全てを許す。

 斯く在れかしと望んだ畢生矛盾なく。女に飽けば、天はひとつ飛ばしで御子を授ける。浅き春の夜に現れた少年は、ふとお濠の月にかけた願いのままの姿。

「人生は楽しいなぁ、修司」

 愛らしい羞恥を含んだ返事すら、創世から在る天の音盤に刻まれて。太陽と月が交互に顔を出すように、星々が同じ軌道を辿るように、天は親子にも必然を約束する。

 あらん限りの幸福を。万物万象の調和を。

 その約束された世界の中では、愛は永遠に手中にあり、花は朽ちることなく、また全ての者が望ましい姿でこう謳うだろう。

 ――嗚呼、愉しきかな〈理想世界アタラクシア〉!


 彼の世界は美しく、

 彼の世界は寛容で、

 彼の世界は愛に満ち、

 彼の世界は幸福で、

 彼の世界は調和し、

 そして、


 世界は全て、彼の思うまま。

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