第二話 見つけた

香菜かな、おはよ」

「あ、杏実あみ、おはよ」


 人見知りの私にもやっとできた友達が神田杏実かんだあみ。席替え前までは、近くの席に男子が多くて、遠くの席の女子に話しかける勇気もなく、自分の席に座って本を読んでいた。


 席替えで私の前の席になったのが杏実だった。私たちの席は窓側で、私は一番後ろの席。とっても運がいい。

 席が後ろの方に移動しただけだったから、一足先に荷物の移動を終えて、いつものように窓の外の桜の木を眺めていた。

「あそこの桜綺麗だよね」

と話しかけてくれたのが杏実だった。緊張しててまともに返事できたかも覚えてないけど、そこから話すようになって、仲良くなった。


「今日も早いね」

「私朝型なのかも」


 大体教室についても誰もいない。今日もそうだった。

 私は朝5時くらいに起きるから、朝ごはんを食べたり、身だしなみを整えたりとやらなきゃいけないことを終わらせても、6時半くらいにしかならない。それでいて、最寄りは学校から二駅。時間で言えば5分の距離だ。だから、学校に着くのが早いのは当然と言えば当然でもあった。


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「あ、宿題忘れた」

家を出て少ししたあと、宿題を取りに戻ったから、今日は10分くらい学校に着くのが遅くなった。


 いつもと同じように教室に入ると、隣の、今まで学校にきてなくて不登校だと噂の人の席にリュックがかけてあった。わかってるのは、男子だってことと、名前が木崎楓きざきかえでだってことだけ。最初はみんなの話のたねになっていたけど、最近では話されることすらなくなっていた。


 席が隣の人のことが少し気になりながらも、私はいつもどおり本を開いた。


 5分くらい経っていただろうか。教室の前のドアがガラガラと音を立てて開いたのに気がつき、私は顔を上げた。



 そこにいたのは、私が探していた君だった。


 君は、私の右隣の席に腰を下ろして、そのまま机に突っ伏した。私は静かに立ち上がり、君の後ろに立ってみた。あの時とは格好が違うけれど、その後ろ姿は、やっぱり君だった。


 不登校のクラスメイトと、探していた君。それは同じ人だった。


 その後、いつものように杏実がきて、いつものように1日は始まったけれど、私は君のことが気になって仕方がなかった。

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