第一話 君は誰

 学校生活は、始まってしまうと大忙しで、高校生にもなり新学期なんて飽きるほど経験してきたはずなのに、まだ慣れないものか、と思ったりもした。


 ノートを取り終わったから、と窓の外を眺める。桜の木が目に入ると、入学式の時のことを思い出す。


 入学式の後の恒例行事。私が学校生活で嫌いなものトップ3には入る、「自己紹介」。担任の先生が、

「名前と趣味は必須ね。あとは入りたい部活とか、好きな食べ物とか、自由にやってね」

と言っていたけど、その「自由にやってね」が無理なのだ、ということに気付いてほしいところ。


 こういう時だけ、この名字が恨めしい。どう頑張っても出席番号は1番。自己紹介も1番最初だ。


 椅子から立ち上がって後ろを向く。この動作だけでもすごく緊張するのに、どうしたらいいっていうんだろう。

藍沢香菜あいざわかなです。外部です。趣味は、読書と音楽を聴くことです。よろしくお願いします。」

そこまで言うと、私は早々と席に着く。最初だから、ちゃんと拍手はしてもらえるのが、不幸中の幸い。


 あえて外部とか言うのは嫌味っぽかったかな、と気にしているうちに次の人の自己紹介が始まってしまうので、考えなくてよくなるのも楽だったな。


 まだ始まったばかりの学校生活なのに、もう既に授業がつまらなくて、そんなことを考えてしまっていた。気づいたら黒板には白い文字が増えていて、内容は全然頭に入ってない。


 シャーペンを動かしながら思う。君は誰なのだろう。

 自己紹介の時に一応は全員見てみたけど、それらしい人はいなかった。見ればわかると思うのだ。あんなに印象的だったから。


 君の名前が知りたい。それが今の私の願いだった。

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